お客様と社員、すべての人を幸福にする「日本一の店」を目指して
牛右衛門は、長崎県を中心に45年以上地域に愛されてきた老舗レストランチェーンです。現在は2代目の中村社長が経営を担い、和食と洋食の2業態をメインに長崎県内外に17店舗を展開しています。大手チェーンとは一線を画し、地域に根差した個性豊かな料理と温かいおもてなしで顧客を魅了し続けています。今回は、その歴史と未来、そして働くことの真髄について、中村社長にお話を伺いました。
<聞き手=高橋宏輔(学生団体GOAT編集部)>
【中村様の今までの経緯・背景】

牛右衛門は45年以上の歴史を持つ老舗企業です。私は2代目であります。創業当初はファミリーレストラン事業、そしてうどん関係の事業も手掛けていました。しかし、時代の流れに合わせて大きく事業を変革してきました。現在は和食と洋食の2業態をメインに展開しています。
私は生まれた時から会社が身近にあり、両親が経営の話をしていたため、自然と「自分もいずれ継ぐんだ」と考えていました。大学を卒業後、東京から地元の長崎に帰り、まず料理人として働き始めました。
創業当初、レストラン自体が珍しかった頃は、流行りの料理を提供すれば収益が上がる時代でした。しかし、今はそのような状況ではありません。他社にはない「地元色」を追求し、独自の個性を打ち出していくことが、お客様に来ていただくための鍵であると私は考えています。
取材担当者(高橋)の感想
中村社長がご自身の生い立ちから自然と家業を継ぐ道に進まれたというお話に、事業への深い情熱を感じました。45年という長い歴史の中で、時代の変化に柔軟に対応し、事業を変革されてきたお話は、経営における適応能力の重要性を教えてくれます。特に、集客方法が時代と共に大きく変わったという具体的なエピソードは、将来社会に出る上で常に学び続けることの大切さを痛感しました。

【株式会社 牛右衛門の事業・業界について】

牛右衛門は現在、長崎県内を中心に17店舗を展開しています。佐賀や福岡にも店舗があります。和食と洋食の2業態を運営しており、地域密着型レストランとして、大手チェーンとの価格競争は避けています。地元食材を活かした独自の料理と個性を追求しています。顧客集客では、LINE公式アカウントが最も有効な手段です。現在、約2万6千人もの登録者がいます。以前はクーポン付きチラシを配布していましたが、今はLINEクーポンへの移行が進み、LINEのクーポン利用率は倍増しました。この傾向は今後も続くと見ており、店舗に設置したQRコードからの登録が主な流入経路となっています。
お客様は新規の方もいらっしゃいますが、リピーターや常連客が多くを占めるのが特徴です。ある店舗では、人口1万4千人程度の地域で年間10万人以上が訪れており、単価1100円程度で月商1000万円を売り上げています。これは地域広域からの集客とリピーターの強さを示していると私は考えています。しかし、店舗ごとの売上は立地や地域のイベント状況に左右されます。佐世保ではハウステンボスへの修学旅行が減少した影響で、売上は芳しくありません。一方、長崎市内はスタジアムシティ開発の影響で、お客様が増加していると感じています。
外食産業全体では、少子高齢化による人口減少が深刻です。特に長崎県では毎年9200人もの人口が減少しています。これにより、地域によっては過疎化が進み、外食産業の廃業率も高まっているのが現状です。昨年は外食産業全体の倒産率が大幅に増加しました。このような厳しい状況で生き残るためには、マーケットに合わせた商品開発や、時代のニーズに応える柔軟な姿勢が不可欠であると私は考えています。
取材担当者(高橋)の感想
LINE公式アカウントで2万6千人もの登録者数を誇っていることに驚きを隠せませんでした。地域密着でありながらデジタルツールを駆使した集客戦略は非常に参考になります。また、少子高齢化や倒産率の増加といった外食産業の厳しい現状と、その中で生き残るための戦略を具体的に教えていただき、業界のリアルを深く知ることができました。これからの社会では、常に市場の変化を敏感に捉え、新しい価値を生み出す力が求められると改めて感じました。

【中村様から学生へのメッセージ】

学生の皆さんには、「やりたいことをやれば良い」と伝えたいと考えています。今の学生は、私たち世代に比べても総じて真面目で、目標意識が高いと私は評価しています。特にアルバイトの学生の中には、社員よりも優秀で、仕事の習得や接客スキルが高い人材もいます。ある店舗は長崎大学のすぐ隣に位置しており、ほぼ全員が長崎大学の学生アルバイトです。彼らは非常に優秀で、社員からは「孫のように」可愛がられ、店舗の業績にも大きく貢献してくれています。
ただし、生計を立てることを考えるならば、より真剣に仕事に取り組むべきだと私は感じます。学生間では「本気度」の二極化が見られます。また、メンタルが弱い傾向や、「行動する前に考えすぎる」傾向があるとも感じています。しかし、「やってみれば大したことはない」のです。まずは実践することの重要性を強調したいと私は考えています。アルバイト経験が豊富な学生は、社会での振る舞いをスムーズに習得できる一方、経験が少ない学生は、上下関係や同僚との付き合い方、コミュニケーションに戸惑うことがあるようです。
職場で円滑な人間関係を築き、働きやすさを確保するためには、まず「挨拶」が最も基本的なスタートラインです。新人が職場に入った際、私は一人ひとりに挨拶をさせることを徹底しています。これがスムーズな人間関係の構築と働きやすさに繋がると考えているからです。外食産業で人が辞めてしまう最大の原因は、人間関係や職場の雰囲気にあります。採用だけでなく、既存社員や管理職の意識改革が重要であると私は考えています。レストランを「団体競技」と捉え、従業員一人ひとりがボールを繋ぎ、お客様にパスを渡し、再び戻ってきてもらうことを目指す「チームワーク」が重要だと私は説いています。店長や管理者には、実際の店舗運営はパートやアルバイトに任せ、自分たちの仕事は「教育と管理」であると明確に伝えています。
取材担当者(高橋)の感想
「やりたいことをやれば良い」というシンプルながらも深いメッセージに、私も背中を押されました。「やってみれば大したことはない」という言葉は、何事も経験することの重要性を痛感させられます。アルバイト経験を通じて社会性を養うこと、そして「挨拶」が人間関係の土台であるというお話は、私もすぐに実践できるアドバイスとして心に刻みました。また、店舗の雰囲気が離職率に直結するという社長の洞察は、組織を率いる上でのリーダーシップのあり方を考える上で非常に勉強になりました。

【株式会社 牛右衛門の今後の展望】

私が掲げる今後のビジョンは、「日本一の店にする」という一貫した目標です。これは店舗数やミシュランの星の数といった表面的な指標ではなく、「お客様が日本一だと思ってもらえる店」を目指すということです。そして、関わる全ての人が胸を張って働けるような「一流の企業」を築くことを目指しています。以前は「地域一番店」を目指していましたが、より高い「日本一」へと目標を上方修正しました。常に高い志を持ち続けることで、組織も個人も成長できると私は信じています。
最終的なゴールとして、私は「関わった人すべてが幸福になること」を挙げています。お客様はもちろんのこと、スタッフ、スタッフの家族、そして仕入れ業者まで、会社に関わる全ての人々が幸福になることを目指しています。
仕入れ業者を不当に扱って自社だけが儲かるような短期的な利益追求は考えていません。適正な利益分配を通じて、関係者全員が幸福になる関係性を築くことが、結果的に会社のイメージ向上と永続的な発展に繋がると考えています。壮大な夢は持ちつつも、まずは目の前の人々を幸せにすることに私は集中しています。
取材担当者(高橋)の感想
「日本一の店にする」という目標を、店舗数ではなく「お客様にそう感じてもらう」という視点で定義されていることに感銘を受けました。単に利益を追求するだけでなく、「関わる人すべてが幸福になること」を最終的なゴールに掲げられている点に、企業としての社会的な責任と温かい人間性を感じました。私も将来、中村社長のように、ビジネスを通じて多くの人を幸せにできるような存在を目指したいと強く思いました。
