栃木県宇都宮市を本社とするビューティアトリエグループ、総美有限会社です。創業は1963年(昭和38年)で、主に美容・理容部門を展開していますが、美容商品・化粧品の販売、カフェなどの飲食事業、まつ毛エクステ、ドライヘッドスパ、さらにはベトナムでの海外展開など、多角的に事業を行っています。
経営理念は「可能性に挑戦し続け、人が輝く社会を創る」ことです。単に「髪を切る場所」としての美容室ではなく、お客様の人生そのものをサポートする「ライフスタイルビューティコンサルタント」になることを目指しています。
<聞き手=高橋宏輔(学生団体GOAT編集部)>
【経営理念と「港」の共存共栄ビジョン】

私たちの経営理念は、「可能性に挑戦し続け、人が輝く社会を創る」ことです。この理念のもと、美容業だけでなく、目の前のお客様に対して「美」を通して挑戦を続けています。ビジョンとして掲げているのは、「美しい暮らしを通して勇気と可能性を創る。世界の人を美しい暮らしで幸せにする、『しあわせ創造企業』」です。
これまで私たちは、一つの企業の中で全員が同じ価値観を持ち、「この船に乗ってほしい」というイメージで、共通言語や方針を作る教育を重視してきました。しかし、ここ数年でコロナ禍が終わり、働き方や人々の価値観が大きく変化したと認識しています。
そのため現在は、社員に「船に乗ってほしい」と求めるのではなく、考え方を変えています。「同じ夢を持つ人たちが、船ではなく同じ港で将来一緒に仕事ができたら素晴らしい」というイメージを描いています。港という考え方により、大きなアトリエという船に乗り続ける人もいれば、興味の幅が広がり、他部門の専門家として港で共に働く人もいます。また、独立を志す人に対しては、半独立という形で小さな船を持つことも可能にしています。私たちは、お互いの足を引っ張り合うのではなく、「共に共存共栄をしていく」という新しい働き方と夢を会社として目指しています。
取材担当者(高橋)の感想
創業から長い歴史を持つ企業が、時代の変化に合わせて柔軟に組織の在り方を変革している点に強く惹かれた。特に、美容師という専門職において「独立」という選択を敵対視せず、同じ港で共に協力し合う「共存共栄」を掲げるビジョンは、キャリアを考える上で希望が持てる内容だと感じた。

【独自性の源泉は「人」と「心からのおもてなし」】

美容業界は全国に約27万軒もの美容室があると言われています。これはコンビニエンスストアの数をはるかに上回る規模です。ハサミでカットをするという行為は世界共通であり、この激しい競争環境の中で技術だけで差をつけることは難しいと認識しています。だからこそ、ビジネスを行う上で独自性を築かなければならないと考えています。
私たちの独自性の源泉は「人」そのものです。働く「人」が一番の商品であり、その「人」が提供する独自のサービスとして、私たちは「新鮮な技術」「心からのおもてなし」「ライフスタイルビューティ」という3つの柱をモットーとしています。技術は時代とともに変化するため、常に新鮮な技術を学び続けることを重視しています。
特に「心からのおもてなし」については、20年以上にわたり、全てのお客様に手書きのメッセージカードを出し続けています。お客様がシャンプーを終え、カット席に着いた際に必ずカードが置かれているという具体的な取り組みです。これにより、お客様に温かみや「今日お待ちしていました」という気持ちが伝わり、強い信頼関係を築いています。
さらに、知識を教えるだけでなく、行動を通して体験させ、それを習慣化させることを教育の中で大切にしています。その一環として、社員の健康を考えるため、無農薬の畑を長年運営しています。お客様に内面(健康)をアドバイスするプロとして、自ら体験していないことは伝えられないと考えているからです。また、働く人たちが心身ともに健康であるよう願い、お米が食べ放題という福利厚生も提供しています。
取材担当者(高橋)の感想
美容室が27万軒も存在するという事実に驚いた。技術が共通だからこそ、「人」を商品と捉える発想に強く共感した。20年以上にわたり手書きのメッセージカードを送り続けているという取り組みは、徹底した「おもてなし」を体現しており、企業文化の強さを感じた。また、社員教育の一環として無農薬の畑を運営し、健康や食への意識を高めている点も印象的だった。

【「髪を切る人」から「ライフスタイルビューティコンサルタント」へ】

お客様は美容室に年間でおおよそ4〜5回ほど来店します。しかし、美容室や理容室は「社交場」としての側面もあり、プライベートな話をしやすい空間です。そのため、私たちの仕事は髪を切るだけでなく、お客様の仕事やライフスタイルを応援することだと思っています。
人生100年時代の現代において、お客様が求めているのは髪の美しさだけでなく、「健康」です。外見が綺麗でも、健康でなければ本当の意味での幸福にはつながりません。だからこそ、私たちは内面(健康)への意識を高めてもらうことを重視しています。さらに、お客様がモチベーションを持ち、「自分らしい生き方」を見つけていくことをサポートしたいと考えています。
私たちの理想は「ライフスタイルビューティコンサルタント」です。髪を切るのは手段の一つにすぎません。お客様が気分転換に来店し、会話を通じて元気を得て「今日は髪を切らずに帰ります」と言っても、幸せになって帰っていただけるなら、それで良いのです。お客様が笑顔でお店を出る瞬間こそ、私たちが背中を押している瞬間です。これこそが、髪だけでなくお客様の人生を支える「ライフスタイルビューティコンサルタント」の使命だと考えています。
取材担当者(高橋)の感想
私自身も美容院に行くたび、髪を整えるだけでなく「話を聞いてもらう」「気分が晴れる」といった心理的満足を感じていた。同社が「心の健康」や「自分らしい生き方」を重視し、ライフスタイル全体を支援する姿勢を持つ点は、他の美容室にはない圧倒的な独自性だと感じた。

【業界の構造的課題に挑む地位向上への決意】

美容師の平均年収は低いと言われています。しかし、美容師は国家資格を持つ専門職であり、専門学校で2年間学び、さらにサロンに入ってからも2〜3年間、営業外の時間を使って技術を磨く職業です。この仕事の価値は非常に高いと考えています。機械に置き換えられない労働集約型の仕事であり、お客様一人ひとりに2時間かけて向き合い、対価をいただく職業だからです。だからこそ、私は美容師の地位向上を実現したいと考えています。適切な価値(価格)が認められなければ、好きな仕事であっても続けることは難しくなります。日本は世界的に見てもカット料金が安い水準にあります。
現在、美容師の成り手は減少しています。美容学校を卒業しても実際にサロンに就職するのはクラスの半数程度で、さらに入社後1年以内に約半数が離職すると言われています。近年はフリーランス契約の増加により、教育機会の減少や技術水準の低下も課題です。このままでは20年後、「本当に上手な人に髪を切ってもらう」という体験が難しくなるかもしれません。
私たちは、お客様に**「誰にやってもらっても上手だ」**と感じてもらえる技術を磨く努力を続けます。そして、お客様がサービスの価値に納得し、適正な価格で支払ってくだされば、業界全体も変わると信じています。髪を切るだけでなく、髪のケアやアドバイスも含めて提供することで、美容師の仕事の幅を広げ、地位向上につなげたいと考えています。
取材担当者(高橋)の感想
美容師という専門職が持つ価値が十分に評価されていない現状を知り、業界課題の深刻さを実感した。「地位向上」を目指すという高い志と、教育・福利厚生を通じて現場の支援も行う姿勢に感銘を受けた。単に価格競争に巻き込まれず、顧客が納得して対価を支払う関係を築こうとする姿勢は、働き方の理想像を示しているように感じた。
