瀬戸内バス株式会社は、地域に密着した公共交通を担い、安全で快適な移動サービスを提供してきた企業です。路線バス・貸切バス・観光バスなど幅広い運行を行い、地域住民の生活を支える“日常の足”として、また観光の発展を支える“地域のゲートウェイ”として重要な役割を果たしています。
同社の大きな特徴は、単なる移動手段としてではなく、地域社会の暮らしを支える「生活インフラ」としての使命を大切にしている点です。安全運行への徹底した取り組みはもちろん、誰もが利用しやすいサービスづくりに力を入れ、利用者一人ひとりに寄り添いながらサービス品質の向上に努めています。
時代の変化に応じたサービス改善や新たな交通ニーズへの対応にも前向きで、地域の未来に必要とされるバス会社をめざして挑戦し続けています。瀬戸内の街と人をつなぎながら、これからも地域に寄り添い、安心と便利を届ける企業です。
<聞き手=石嵜渉(学生団体GOAT編集部)>
【渡邉様の今までの経緯・背景】

私は同族経営ではなく、一般の大学生として入社し、叩き上げで現在の地位に至りました。幼少の頃から車と旅行が好きで、中学時代は旅行研究クラブに3年間、大学でも旅行研究会に4年間所属していました。国内旅行のプランや、どうしたら安く旅行できるかといった研究をずっと続けてきました。
大学4年生の7月、一番遅い時期に就職活動を始めました。当時は大学の先輩が某大手旅行代理店の管理職にいらっしゃったため、先輩がいるからと高をくくって採用試験を受けました。最終面接まで進んだのですが、面接官から「知らない土地へ行って飛び込みの営業ができますか」「海外旅行の添乗ができますか」と質問されました。私は海外旅行の経験がなく、営業経験もなかったため、回答に少し時間がかかってしまいました。その言葉の詰まりを面接官は汲み取り、内定は得られませんでした。会社としては、やはりバイタリティのある、前向きに仕事を頑張ってくれる、恐れない学生を求人していたのだと思います。
その後、別の先輩の影響で東京のホテル会社から内定をいただきました。しかし、内定をもらった8月のお盆に帰省した際、父の友人に会う機会があり、「うちの会社を受けてみないか」という一言がありました。それが現在の弊社(瀬戸内バス)です。父からも「地元で就職した方がいい」「東京なんか行ったってお前なんか仕事ができるわけない」と言われました。親は子供の性格を一番知っているので、「家から通う会社じゃないとやっていけない」と言われたのです。
応募したところ採用となり、入社を決めました。ホテルマンもバス会社も、車が好きでしたし、バス会社は観光事業もあるため、全く旅行業とは離れたものではなかったからです。何より、せっかくお声をかけていただき、内定までいただいたのに断るのは失礼にあたるという父の友人の顔を潰してはいけないという思いがありました。昭和63年の夏の父の友人の一言がなかったら、私は今ここにいなかったと思っています。そこが人生の分かれ道でした。
入社後10年間は観光貸し切りバスの営業を担当し、人と話すのが本当に楽しかったです。松山市内の旅行業者様を回った後、広島、大阪の関西地区の営業を8年半担当しました。その10年間で、バス旅行の添乗や企画といった経験もさせていただきました。その後、今治市に戻り、現場の営業所でバスの運行管理を3年間経験し、営業所長を3年間務めました。本社に戻ってからは総務人事、社長秘書を12年間担当しました。その後、取締役、常務取締役を経て、ちょうど4年前に社長に就任し、現在に至ります。
取材担当者(石嵜)の感想
渡邉社長が同族経営ではない一般入社から、叩き上げで社長に就任された経緯には、人と人とのご縁と義理を重んじる姿勢が強く感じられました。旅行が好きという原体験を基に、最終的にバス会社という交通・観光に携わる仕事を選ばれたことは、人生の選択における「好き」の力の重要性を示していると思います。また、人生の大きな岐路で「父の友人の顔を潰してはいけない」という義理を優先し、地元での就職を決断されたエピソードは、社会人にとって「恩義」がいかに重要かを学ぶ機会となりました。

【瀬戸内運輸株式会社の事業・業界について】

平社員であっても社長であっても、目指すことは一緒だと考えています。お客様にいかに満足していただけるか、安全にお客様を目的地までお届けするか、経営の基本です。経営において重要だと考えているのは、やはり人と人との繋がりです。恩義というものを大切にしており、助けていただいたり、ご協力いただいた方には必ず何らかの形でお返しするという信念は、入社した当時から変わっていません。具体的な行動としては礼儀でしょう。何かしていただいても、「ありがとうございます」と一言言うことです。その言葉はお客様から助けられますし、当たり前にしていることでも、お客様から「ありがとう」と言われると、私たちもやっていてよかったと思えるからです。
特に、営業所長時代に経験したことは、一生忘れることができません。営業所長は営業所の代表と同じであり、人身事故が起こったらその責任は営業所長にあります。ドライバーも事故を起こそうと思ってはいませんが、ヒューマンエラーによってお客様や相手方にご迷惑をおかけすることがあります。その時の対応として、夜中でも事故の現場や病院へ駆けつけ謝罪をいたしました。
特に印象に残っているのは、死亡事故が起きた時です。病院で土下座をして謝罪しましたが、やはり感情的に相手の方はなられて、なかなか許していただけなかったのが一番辛かったことです。お葬式に参列させていただいた時も、「会社の人間は帰ってくれ」と罵声を浴びせられました。それでも、毎週、七日七日忌(なのか・なのかき)にお伺いしてお線香を上げさせていただいた結果、1周忌が終わった後に示談に応じていただきました。これは誠意が伝わった結果だと考えています。
世間は狭いもので、その被害者の方がお勤めされていた会社が、弊社と取引している整備会社の整備の方でした。その整備会社の社長様が、「営業所長がそこまでしてくれる人はいない」ということをおっしゃっていただいたことが、示談に結びつきました。未だにその整備会社の社長さんとは親交が続いており、取引も続いています。どこで繋がっているかわからないということを実感し、常日頃から、人との繋がりを心がけ、心に刻んで会社を経営しています。
取材担当(石嵜)の感想
渡邉社長の「目指すことは平社員でも社長でも一緒」という言葉は、仕事の本質を捉えていると感じました。特に、営業所長時代に死亡事故の被害者の方に対し、罵声を浴びせられながらも毎週お線香を上げ続け、最終的に誠意が伝わり示談に至ったというエピソードは、困難な状況においても誠実さを貫くことが、いかに人との繋がりや信頼構築に不可欠であるかを深く示しています。世間は狭く、どこで縁が繋がっているかわからないという教訓は、私たち若者が社会で生きる上で、常に心に留めておくべき大切な視点だと学びました。

【渡邉様の学生へのメッセージ】

最近の学生さんでもアルバイトをされている方は多いと思いますが、入社してからスタートラインが違います。アルバイトをされている学生さんと、勉強に熱心にされていた学生さんとの差は、明らかに違うというのを実感しました。アルバイトに熱中しすぎて学業がおろそかになり留年するのはだめですが、きちんと卒業して入社されると、スタートで同期入社と差が出ていたということを後ほど人事から聞きました。
私も4年間アルバイトをしました。最初は接客業から入り、その後3年、4年はマスコミ系の会社の報道部でマスコミ関係のアルバイトをさせていただきました。報道の第一線で活躍されている方々の厳しさが、入社してからのバイタリティに繋がった一つだと思います。報道のアルバイトでは、泊まりの勤務でライトマンとして、記者さんと一緒に夜中に火事などの現場へ駆けつけて取材をしなければならない経験をしました。すぐに動かないと仕事にならないという経験が、営業所長時代の事故対応といった局面にも生きてきたのではないかと思います。
また、取材を通して、地域の方々との繋がりや、ご年配の方のお言葉を学生時代に聞くことができた経験が、社会人になって本当に生きてきていると思っています。私は元々口下手で、人と話すことが苦手な方でしたが、大学に入って接客業から入り、様々な業界を見ることができたのが経験になっています。社会に出るにあたって持っておいた方がいいことは、やはり礼儀です。何かしていただいても「ありがとうございます」と一言言うこと。その一言が、お客様や周囲の人々から助けられることにつながるのです。
取材担当(石嵜)の感想
渡邉社長の「アルバイト経験がスタートラインを分ける」という言葉は、学生時代にただ勉強するだけでなく、実社会での経験を積むことの重要性を強く示しています。特に、NHK報道部でのアルバイトを通して「すぐに動かないと仕事にならない」という緊張感のある環境を経験されたことが、後に社長の危機管理能力や誠意ある行動力の土台になったというお話は、若いうちにバイタリティを鍛えることの価値を証明しています。私も、若いうちから積極的に様々な経験を積むことの必要性を再認識しました。

【瀬戸内運輸株式会社の今後の展望】

コロナの4年間において、交通運輸業もそうですが、最も打撃を受けたのは旅行業です弊社グループの旅行会社(せとうち観光社)は大きな損失を負い、今も厳しい状況が続いています。愛媛県でも旅行業をされていた会社が倒産しているのが現状です。目標の一つは、せとうち観光社を今期あたりから黒字転換させ、健全な会社にしていくことです。
もう一つは、自動車整備事業の会社の経営です。新車のメーカー保証期間(最長5年)が終了するまでの間、弊社の営業収入をどう確保するかが課題になってきます。その間、別の仕事をどこかで取ってこなければならない状況です。この目標達成のために必要とされているのは、やはり人と人との繋がりであり、知人からの紹介で「車検を入れて本当に車の調子が良くなったよ」といった口コミが何より大きいです。
現在、特にドライバー不足には本当に苦労しています。バス運転士の魅力を分かっていただける方が少なくなっており、長時間労働やお客様からのクレームといった理由で断念してしまうドライバーが多いのが現状です。採用戦略として、今年度からは総合職の事務員の求人で入社していただいた方から、ドライバーへ養成していくという形態にシフトしています。新卒から入ったドライバーもいますが、会社が費用を負担して大型二種免許を取得していただく制度があっても、ドライバーのハードルは高いのが現状です。
AI導入や自動運転バスの導入についても検討していますが、大きな資金力が必要になるため、導入するまでには年数がかかります。コロナの4年間で経営状態も厳しくなっており、購入価格が億を超える自動運転バスは、弊社では5年、10年先になるのではないかと考えています。何より、バスに関してはやはり安全が第一であります。自動運転で各地で事故が起こったという情報も聞くため、安全性を考えると、弊社ではもう少し先になるだろうと思っています。整備業界においても、一つのネジを締めるのが緩かったりすると大きな事故に繋がるので、気配り、心配りが非常に重要です。安全の第一を徹底し、「それを未然に防ぐのは私たちの使命です」ということを日頃から社員には言っています。それが、お客様の心を獲得する基本だと考えています。
取材担当(石嵜)の感想
コロナ禍で大きな打撃を受けた旅行会社を健全化するという具体的な目標や、自動車整備事業における課題への取り組みからは、危機を乗り越えようとする強い意志を感じました。整備事業においても、単に技術だけでなく「気配り、心配り」そして「安全第一」を徹底することで、お客様との信頼関係を築き、口コミに繋げるという事業の基本を愚直に実行されている姿勢に学びました。AIや自動運転といった最新技術の導入には慎重ながらも、安全性を最優先するという判断は、交通事業者としての責任の重さを改めて示していると感じました。
