小倉産業株式会社は、「フルーツ王国岡山」「岡山の伝統工芸品」「瀬戸内海の恵み」など、岡山の魅力を一人でも多くの方にお伝えし、地域貢献に尽力しています。お土産品や特産品の企画・加工・卸売・小売を手掛け、晴れの国・岡山にある多くの魅力を、県内の皆様には再認識していただき、県外・海外の皆様には知っていただくことを使命として事業を運営してきました。岡山県産素材を扱う企業とのパートナーシップを活性化し、お客様に喜ばれる商品を提供することで、持続可能な農業を推進しています。当社は定番商品を大切にする姿勢を保ちながらも、変化を恐れず新しい挑戦を続け、驚きを発信し続けています。
<聞き手=高橋宏輔(学生団体GOAT編集部)>
【事業変革:雑貨中心から食品への転換と既存販路の活用】

私が経営を引き継いで以来、小倉産業の事業は従来の雑貨中心から食品へと大きく転換しました。この事業転換は簡単ではありませんでしたが、既存のビジネスモデルの中に転換を可能にする強みを見出していました。すなわち、商品の「出口」、つまり売り先が雑貨と食品で共通している点です。これまで雑貨を扱っていた場所と、これから力を入れる食品を扱う場所は同じでした。
具体的には、高速道路のサービスエリアや駅のお土産店、倉敷のような観光地のお土産店など、従来雑貨で取引していた販路が既に確立されていました。例えば、JRのお土産店には雑貨として納品していましたが、今後は食品も取り扱ってほしいとお願いする段階であれば、新たに販売先で口座を開設する必要がないケースが多かったのです。そのため、商品の出口という点では大きな問題はないと判断していました。
一方で、仕入れの面では大きな課題に直面しました。これまでは中国やベトナムから雑貨を仕入れていましたが、食品となると基本的には国内のお菓子屋から仕入れることになります。ただ仕入れて右から左へ売るだけでは難しいと考え、当社のOEM(オリジナル)商品を作ってもらえるメーカーを探しました。しかしこの仕入れの面で業界特有の壁に直面し、最初は非常に苦労しました。
取材担当者(高橋)の感想
既存の販路という強みを活かしつつ、事業の核を大胆に転換した決断力と戦略性に感銘を受けました。自分のキャリアでも、持っているリソースをどう応用できるかを見極める重要性を学びました。

【OEM商品開発における業界の壁と新しい連携先の開拓】

自社のOEM商品を作ってくれるメーカーを探すという目標は、大きな挑戦でした。日本の食品・お土産業界は非常に狭い業界構造を持ち、ご当地限定商品を手がける場合、価格競争を防ぐためにライセンスを取りまとめる会社や大手メーカーが各地域での取引先を1〜2社に絞るのが通例です。お菓子業界も同様で、ある工場が県内で複数の会社と取引すると価格競争になってしまうため、メーカーは取引先を限定するのが実情です。
当社が食品事業に力を入れ始めた平成17年頃には、すでに県内でお土産菓子を扱う会社が数多く存在していました。そのため当社が依頼しても、「岡山では既に他社と取引しているため、当社のOEM商品は作れない」と断られることがほとんどでした。こうした慣習という分厚い壁に対して、私たちが取った突破口は、大手メーカーから独立した、独立志向の高い菓子職人やメーカーを探すことでした。
大手に在籍していた方が独立してお菓子屋を立ち上げる場合、前職が取引していた顧客に営業するのは人情的に好ましくないとの配慮から、新たに別の取引先を探す必要があります。私たちは、そうした新しいパートナーと地道に取引を重ねました。この粘り強い努力の積み重ねによって、現在では協力してくれる工場が大幅に増えました。
取材担当者(高橋)の感想
既存の枠組みにとらわれず、新しい担い手を見つけ出して連携を築く戦略が印象的でした。地道な積み重ねこそが真のチャレンジ精神だと感じます。

【「晴れの路」ブランド戦略:「脱お土産」から「手土産」へ】

私たちが展開する「晴れの路」ブランドは、「メイドイン岡山」に徹底的にこだわった商品群です。商品の企画は当社が行い、製造は岡山のメーカーに依頼し、岡山の素材を使って仕上げます。この徹底した「メイドイン岡山」を軸に開発した商品群を「晴れの路」と名付けています。
「晴れの路」ブランドのコンセプトは二つあります。一つは「メイドイン岡山」であること、もう一つは「手土産」志向であることです。私たちはターゲットを観光客に加え、岡山県民にも広げています。初めて岡山を訪れる方には定番のお土産品をお選びいただいて構いませんが、2回、3回と来られる方が毎回同じものというわけにはいきません。
私たちが最も目指しているのは、岡山県民が県外に行く時に「このお菓子はおいしいから持っていこう」と自信を持って贈れる商品であることです。例えば、奥様の実家が兵庫県にある場合などに、「次は洋菓子を持っていってみよう」と思った時、岡山県民に選んでいただける商品を作りたいと考えています。かつては「脱お土産」というテーマを社内に浸透させるのに時間を要しましたが、今では社員が誇りを持って商品を提供しています。
取材担当者(高橋)の感想
「お土産」ではなく「手土産」に焦点を当てるユニークさに強く共感しました。地元愛を巻き込み、地域全体で価値を高めていくビジョンが魅力的です。

【農業リノベーションを通じた地域創生の好循環】

私たちは商品の企画販売だけでなく、地域社会の課題解決にも積極的に取り組んでいます。中でも、認知度が低い地元の特産品をブランド化する「農業リノベーション」は、「晴れの路」ブランドの重要な取り組みです。岡山県玉野市の「番田芋」のブランディングでは、認知度の低さという課題に対し、番田芋を使った多様な商品を開発しています。
この取り組みの核は、生産者との関係性です。生産者が作るサツマイモを当社が全量買い取ります。道の駅や農協では規格外として弾かれてしまう形の悪い芋も含め、当社が直接すべて買い取ります。全量買い取りにより、生産者は安心して栽培に集中できます。
買い取った芋は、ペースト、あんこ、焼酎などに加工します。小さく形の悪い芋は焼酎にし、焼酎の廃液は肥料として農場へ還元します。お菓子製造工場が作ったお菓子は当社が買い取り、流通・販売します。これが一つの好循環の仕組みです。
この取り組みの最終目標は、マスカットや白桃のように、番田芋そのものが加工せずとも単体で売れるようになることです。芋だけで評価されるようになれば、加工に回す必要がなくなります。皮肉にも、私たちの本当のゴールは、番田芋のお菓子を作れなくなることだと考えています。それが達成されたら、次の「第2の番田芋」を見つけ、その素材を有名にしていきたいと考えています。
取材担当者(高橋)の感想
生産者の雇用確保(全量買い取り)から開発・販売、最終的には素材の自立まで、一貫した「公の循環」を設計している点が印象的でした。社会貢献と経済活動を両立させる仕組みは、これから社会に出る世代にとって大きな学びだと思います。

【未来の業界の担い手へ:情熱とビジョンの共有】

私たちは、埋もれている素材の掘り起こしだけでなく、「街の小さなお菓子屋」の支援にも注力しています。高い製造技術を持つ一方で販路や物流の確保に課題を抱える地元のお菓子屋と組み、JRとの取引口座がない、高速道路のサービスエリアで販売したいが方法が分からない、といった課題の解決を支援します。
当社が連携することで、小さなお菓子屋には「ものづくりに集中してください」と伝えています。その代わり、当社がパッケージ(お菓子が着る“服”)や箱の設計を行い、岡山駅やサービスエリアに運んで、見映え良く展示・販売します。そうすることで、その町の小さなお菓子屋が有名になってくれれば良いと考えています。
これからこの業界に入る若者には、会社のビジョンや経営理念を深く理解することの重要性を強調したいです。小倉産業では、「メイドイン岡山にする」「お土産ではなく手土産にする」といった方針を示すビジョンマップを定めています。極端な表現を用いれば、自分自身を“洗脳”するほどに理念や商品を好きになる必要があるでしょう。メーカーになるにしても、作られたものを売るにしても、まずは商品を好きになることが大切です。かつて愛着のない商品を取り扱っていた頃は、従業員が自社商品を購入しないこともありましたが、「晴れの路」ブランドが浸透してからは、従業員が誇りを持って手土産として利用してくれるようになりました。情熱を持って商品と向き合う姿勢が、業界で成功するための鍵になります。
取材担当者(高橋)の感想
「自分自身を洗脳するほど好きになれ」というメッセージは、仕事に情熱を求める私たちに強く響きました。地域に根差した商品開発や中小企業支援を通じて社会に新たな価値を生み出している小倉産業の理念は、理想とする「やりがい」のある仕事だと感じます。仕事を通じて社会に貢献し、本気で楽しみながら挑戦する姿勢を、私たちも身につけていきたいです。
