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逆境を乗り越え、地元を愛し、未来を描く。株式会社天とてん二代目社長が語る「食」への情熱とZ世代へのメッセージ

2025年08月26日

株式会社天とてん

逆境を乗り越え、地元を愛し、未来を描く。株式会社天とてん二代目社長が語る「食」への情熱とZ世代へのメッセージ

株式会社天とてんは、石川県金沢市を拠点に、飲食サービス、鮮魚卸売、宅配弁当事業を展開する企業です。創業30年以上前、8坪15席のステーキレストランから始まり、現在は「魚がし食堂」や「金沢肉食堂」など多岐にわたる8店舗を展開しています。能登の魚や加賀野菜といった地元の食材を活かし、「食を通じて、世の中に貢献できる会社」を目指しています。経営理念は「喜ばれることに喜びを」であり、「一流を目指す」「楽しさの追求」「おいしさの追求」を行動指針として掲げています。今回は、「喜ばれることに喜びを」を軸に“食を通じて、世の中に貢献できる会社”を目指す多角展開の原点とこれからについて、株式会社天とてん 二代目社長にじっくりとお話を伺いました。

<聞き手=高橋宏輔(学生団体GOAT編集部)>


【入社の経緯と社長就任までの道のり】

大学では理学療法士を目指し医療系の学部に進学しましたが、「この道が本当に自分にとっての正解なのか」という疑問を抱き、中退しました。当時の私には、医療の道へ進むか家業を継ぐかという二つの選択肢しかなく、医療の道ではないと感じた時点で家業を継ぐしかないと決意しました。父に中退と家業を継ぎたい旨を伝えると喜んでくれましたが、母は反対しました。しかし、母の理解も得ることができ、まずは当社に入社するのではなく、外部で経験を積むよう勧められました。

その後、父の繋がりがあった東京の飲食企業に入社しました。当時、その会社は急成長期にあり、私が社会人として過ごした2年半は、居酒屋部門で非常に多くのことを学びました。当初は3年間働くつもりでしたが、北陸新幹線開通のタイミングで父から金沢に戻るよう言われ、予定より半年早く金沢へ帰郷し、株式会社天とてんに入社しました。

入社後すぐに社長になったわけではなく、まずは店長として働き始めました。当時の当社は職人ばかりで、私のような20代前半の若者から見ると平均年齢が倍ほども高く、大きなギャップがありました。年上のベテラン職人たちと意見が衝突することもあり、休みもない過酷な労働環境の中で非常に苦労しましたが、店長として会社に貢献しました。そして、私が30歳になった時、父が70歳になるタイミングで事業承継を行い、私が二代目社長に就任しました。社長になってまだ4年目なので、経営者としての経験は浅いと感じています。社長就任当初は、父が会長として組織にいるため、自分が経営しているという実感はあまりありませんでした。

取材担当者(高橋)の感想

司辻社長のキャリアは、自身の内なる問いかけから始まり、家業を継ぐという大きな決断に至るまでの道のりが非常に印象的でした。特に、医療系の道から飲食業界へと転身し、東京での修行を経て金沢に戻るという流れは、自分のキャリアパスについて悩む学生にとって、固定観念にとらわれずに可能性を広げるヒントになるのではないでしょうか。

また、家業を継ぐ前に外部での経験を積むという選択は、多角的な視点や実践的なスキルを養う上で非常に重要だと感じました。自身の経験を通じて、Z世代が「好き」を見つけることの難しさに言及されていたのも、共感を覚える部分でした。
 

取材担当者(高橋)の感想

【社長としての会社の変化と継続への思い】

社長に就任してから、何かを急に変えなければならないという考えに捉われがちですが、私はまず、創業者の父が築き上げてきたものをそのまま引き継ぐことを重視しました。それが問題なくできるようになった上で、徐々に変化を加えていこうと考えていたため、就任直後に会社が大きく変わったということはありません。しかし、4年前と今を比べると、自然な流れの中で少しずつ変化を重ねてきた結果、会社は確実に良い方向へと進んでいると実感しています。

私が入社する前、会社は良い業態の店舗を持っていても、それを継続させる人材や現場をまとめる人間がいませんでした。父は新しい店舗を立ち上げては、うまくいかずに閉めるということを繰り返していました。しかし、私が現場に入ったことで、会長の思いを現場で具現化し、改善や報告が円滑に進むようになりました。結果として、会社はより良い方向に回り始めたと感じています。

実は、私が入社する前は会社が存続の危機に瀕している状況でした。高校生の頃に新聞記事で会社の厳しい状況を知り、漠然とした危機感を抱いていました。今思えば、大学中退から東京での修行、そして金沢に戻るまでの全てのタイミングが、会社にとって、そして私自身にとっても最高のタイミングだったのだと感じています。もし大学を卒業していたら、会社の状況はもっと悪化していたかもしれません。この巡り合わせこそが、今の会社がある大きな要因だと考えています。

取材担当者(高橋)の感想

司辻社長の「まずは創業者のやり方を引き継ぐ」という考え方は、安易な改革に走らず、既存の土台を理解し尊重する姿勢が伺え、事業承継における重要な学びだと感じました。特に、会社が危機的状況にあったことを、高校生時代に新聞で知るという経験は、並々ならぬ覚悟を持って家業に戻る決意を固めさせたのだろうと想像します。

自身の入社タイミングを「最高の縁」と語る言葉からは、運命的なものを感じるとともに、日々の努力がそれを現実のものにしたのだと思います。Z世代が何か新しいことを始める際にも、まずは既存の成功事例や仕組みを深く理解し、その上で自分なりの価値を加えていくことの重要性を教えてくれるエピソードだと感じました。

取材担当者(高橋)の感想

【飲食業界の課題と天とてんの取り組み】

飲食業界全体が抱える大きな課題は、物価の上昇と人手不足です。特に深刻なのは、料理人の採用が非常に難しいことです。中途採用の経験者となると、募集をかけてもなかなか応募がないのが現状です。頭数だけを揃えるのであれば、ベトナム人などの外国人人材を積極的に採用しており、彼らは非常に優秀で戦力になります。

しかし、オープンキッチンの店舗、特に金沢駅の観光客向けで新鮮な魚介を期待されるような店では、「見た目の価値」が重要になります。お客様から「ここは東南アジアか」というGoogle口コミがあったように、料理人が日本人ではないことに違和感を覚えるお客様もいます。そのため、刺身カウンターなどで寿司を握ったり魚を捌いたりできる経験豊富な調理人の採用は、依然として大きな課題です。

採用面では、休日や給与といった待遇面を他社よりも高く提示することは、原価率を重視する当社のビジネスモデル上、難しい側面があります。お客様にコスパの良い商品を提供するために高い原価率をかけている分、人件費を抑える傾向があるためです。また、当社の店舗は忙しい場所が多く、その忙しさが求職者に敬遠される要因にもなっています。お客様にとって「良い店」と、従業員にとって「働きやすい店」は必ずしも一致しないというジレンマを抱えています。

それでも、当社は地元金沢で愛され、県外からも多くのお客様が訪れています。特に「魚がし食堂」は、メディアに取り上げられたり、YouTuberやインフルエンサーによる口コミが広がることで、自然と集客につながっています。当社は宣伝広告費をほとんどかけていませんが、商品そのものに高い原価率を投下し、圧倒的なコスパと商品価値を提供することが、結果的に最も強力な広告宣伝になっていると考えています

取材担当者(高橋)の感想

飲食業界が抱える物価高騰と人手不足という共通の課題に対し、天とてんが現実的に向き合っている姿勢がよく分かりました。特に、外国人材の活用と、オープンキッチンにおける「見た目の価値」という、顧客体験と人材戦略のバランスに関する課題は、非常に示唆に富むものでした。

多くの学生は企業を選ぶ際に給与や休日を重視しますが、司辻社長が語るように、お客様への価値提供と従業員への待遇のバランスは、企業が成長する上で常に模索すべき点だと感じます。口コミで人気が広がる「商品力」が、採用力に直結しないという現実も、企業の多面的な魅力作りが求められていることを示していると感じました。

取材担当者(高橋)の感想

【司辻社長が目指す飲食店の姿とZ世代へのメッセージ】

現在の当社の店舗は素晴らしいものですが、私が理想とするのは、従業員一人ひとりが輝き、やりがいを存分に感じられる「舞台のような」フルオープンキッチンの飲食店です。東京での修行時代に経験したような、お客様に見せることを意識しながら働くスタイルは、私自身が飲食業の楽しさややりがいを感じた原点です。お客様にとってコスパも料理も雰囲気も良い「最高の店」であることはもちろん、従業員にとっても「ここで働きたい」と心から思えるような、飲食業の魅力を最大限に体感できる会社を目指しています。今はその目標を達成するための過程にあると考えており、忙しさの中でもスタッフが生き生きと働ける環境をさらに追求していく段階です。

このような魅力的な店舗と組織を築くため、外部から見た当社の「真の魅力」を確立することが現在の私の大きな課題です。既存社員を大切にするのは当然ですが、全く繋がりのない求職者に対して、給与や休日以外の面で「働きたい」と思わせる独自の価値をどう打ち出すか、日々模索しています。

Z世代の皆さんには、「何事も継続すること」の重要性を伝えたいです。私自身も飲食業で働き始めた当初は肉体的に非常に辛く、ブラックな環境だと感じていましたが、2年半という期間の中で、飲食業の楽しさややりがい、仕事の目的を見出すことができました。好きなことを見つけるのは簡単ではありませんし、好きなことでも仕事にすると辛いと感じることもあります。しかし、安易に諦めたり、すぐに転職を繰り返したりするのではなく、**「もう少し掘れば金脈にぶつかるのに」という場所で踏みとどまる勇気も必要です**。

もちろん、劣悪な環境であればすぐに辞めるべきですが、もし一人でも頼れる先輩や上司がいるのであれば、その人を頼り、期間を決めて働き続けるというのも一つの選択肢です。皆さんが自身のキャリアを素晴らしいものにできるよう、どんな環境で働くか、どんな目標を持つかを考え、一歩一歩着実に進んでいくことが大切だと考えています

取材担当者(高橋)の感想

司辻社長が描く「舞台のような飲食店」というビジョンは、単なる利益追求ではない、飲食業の本質的な魅力を追求する姿勢が強く感じられました。従業員が輝く場所を作るという目標は、Z世代が仕事に求める「やりがい」や「自己実現」に直結するものであり、非常に共感を覚えました。

また、Z世代へのメッセージとして「継続すること」の重要性を説きつつも、劣悪な環境であれば辞めるべきというバランスの取れた視点は、現実と理想の狭間で悩む学生にとって、非常に心に響くアドバイスだと思います。自らの経験に基づいた言葉には重みがあり、今後のキャリアを考える上で大切な学びとなりました。

取材担当者(高橋)の感想