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創業100年企業の挑戦:丸十山梨製パン 梅本社長に聞く、老舗継承と未来への羅針盤

2025年05月20日

丸十山梨製パン株式会社

創業100年企業の挑戦:丸十山梨製パン 梅本社長に聞く、老舗継承と未来への羅針盤

山梨で100年以上の歴史を持つ老舗ベーカリー、丸十山梨製パン。パン酵母の元祖として知られ、地域に愛されるパンを作り続けています。今回は、そんな歴史ある企業を受け継ぎ、新たな未来を見据える代表取締役社長 梅本様に、これまでの歩み、事業への思い、そして若い世代へのメッセージを伺いました。

<聞き手=石嵜渉(学生団体GOAT編集部)>


【家業を継ぐ決意】

私の家は家業がパン屋でしたので、いずれは誰かが継がなくてはいけないという思いは漠然とありました。

ただ、高校時代は絶対に継ぎたくないと考えていた時期もあります。しかし、大学に進学し、アルバイトなど様々な仕事の経験を積む中で、仕事に対する価値観が変化していきました。

大学卒業を控え、就職活動をする時期に、家業を継ぐことを具体的に意識し始めました。当時は創業から90年ほどでしたが、長く続く会社を誰かが継がなくてはならない、長男である私が継ぐべきだろうと考えるようになり、そこで継ぐことを決意しました。

大学を出てすぐ家業に入ったわけではありません。一度、外のパン屋さんで働かせてもらったのは、将来自分の会社に戻るためのステップアップを考えたからです。

他の会社で学びたいという思いがあり、そこで経験を積んでから家業に戻りました。会社に戻ってからは14年ほど経ちますが、社長に就任したのはここ3〜4年ほどのことです。

取材担当者(石嵜)の感想

家業を継ぐことについて、私の周りの友人にも抵抗があるという人が多く、個人的には非常に大きな責任や不安が伴うイメージがありました。

しかし、梅本社長のお話からは、経営者としての覚悟と共に、過度に「背負いすぎる」のではなく、地に足をつけて事業に取り組む姿勢を感じました

決断の重さはあるというお話でしたが、その中でもご自身の人生を会社と一体として捉えているところに、深い学びがありました。

取材担当者(石嵜)の感想

【パンづくりの信念】

当社の事業は、パンの製造と販売が中心です。現在は本店と竜王店の2店舗を運営しており、多くのお客様にご利用いただいています。

店舗販売に加えて、地元のスーパーや病院、幼稚園などにもパンを卸しており、給食用のパンなども製造しています。

また、単に決まったパンを作るだけでなく、お客様のニーズに応じたオーダーメイドや特注品も手掛けています。

近くの鉄板焼き屋さんやレストランからハンバーガー用のバンズの特注を受けたり、お子様の一歳の誕生日に使うお祝いの「一生パン」を作ったりしています。最近では結婚式場からの依頼で大きな「ビッグバンズ」を作るなど、面白いチャレンジも積極的に行っています。

こういった取り組みは、働いている従業員にとっても新しい経験になり、自分たちにこんなことができるんだ、と成長を感じる機会になっていると考えています。知らないことへのチャレンジを通じて、従業員の成功体験にもつながることを期待しています。

事業を長く続けていく上で大切にしていること、気をつけていることはいくつかあります。まず、必ず自分が食べて美味しいと思えるものをお客様に提供することです。そのためには、自分の舌を常に確認し続ける必要があります。高級すぎる味ではなく、多くの人々に喜んでもらえる、親しみのある「ぶれない味」を目指すことが重要だと考えています。

そして何より、真面目に誠実にパンを作ることです変な小細工をしたり、良くないことを裏でしたりしないこと。簡単なことのように思えますが、意外とルーズになりがちな部分でもあります。

会社を長く続けるには、こうした「やってはいけないこと」をやらない誠実さが非常に大切だと考えています。悪いことをしている会社は、どこかで綻びが出て、いずれ潰れてしまうことが多いのではないでしょうか。

組織運営においては、他の人に任せきりにしないことを心がけています。特にこの規模の会社では、全てを任せてしまうのは良くありません。必ず最後に自分が責任を持ってチェックするか、方向性を示してあげる必要があります。

自分の会社なので、自分のカラーを出し、誰もがついてきたいと思えるような形にしていかなければ、誰もついてきてくれないと考えています。一方で、従業員とはある一定の距離感を保つことも大切です。

仲良くなりすぎると、いざ厳しい判断をしなければならない時に難しくなることがあります。親しい中でも礼儀を忘れないように、適切な距離感で接することが重要だと、先代からも教えられてきました。

取材担当(石嵜)の感想

梅本社長から伺った事業内容は、単にパンを売るだけでなく、地域のニーズに応じた多様な展開をされている点が印象的でした。特にオーダーメイドパンや給食事業など、地域との繋がりを大切にされていることが伝わってきました。

また、「誠実にパンを作る」という当たり前のことを愚直に続けることの重要性、そしてそれが会社の継続に繋がるというお話は、これから社会に出る自分にとって非常に学びとなりました。

従業員の方との距離感についても、SNSでの楽しそうな雰囲気とのギャップに驚きましたが、厳しい判断をするためのプロフェッショナルとしての線引きがあることを知り、経営者の難しさと責任を改めて感じました。

取材担当(石嵜)の感想

【山梨の顔になるパンへ】

今後の会社のビジョンとしては、当社の看板商品である「レモンパン」を、山梨県を代表するパンに育てていきたいと考えています

現在、私が住んでいる富士市やその周辺地域では比較的知られているパンですが、山梨県全体で見ると、まだ「山梨県のパン」としてすぐに名前が挙がるような存在にはなっていません。

「山梨県のパンと言えば?」と聞かれた時に、丸十山梨製パンのレモンパンと答えが返ってくるような、そのようなブランドにしていきたいと考えています。観光客や県外から来られた方々にも、山梨のお土産として「レモンパン」を選んでいただけるようになれば嬉しいです。

取材担当(石嵜)の感想

一つの商品を、地域を代表するブランドにまで育て上げるというビジョンに、明確な目標意識を感じました。

地域に根差した企業が、特定の看板商品を軸に山梨全体の顔となることを目指すというのは、非常に魅力的であり、実現を応援したいと感じました。

取材担当(石嵜)の感想

【若いうちに旅を】

今振り返って、若い時にやっておけばよかったと思うことは、もっと自分の知らない世界を経験するべきだったということです。

海外旅行に行ってみることもそうですし、全く知らない分野の仕事や活動にチャレンジしてみることも含まれます。

社会人になってからでは、時間的にも機会的にも、こうしたチャレンジは難しくなります。特に大学にいる間は、様々な人との繋がりを作りやすく、多様な経験を積むには良い時期です。

また、これからを考えると、英語は必須になってくるでしょう。留学して英語を学ぶことも、素晴らしい選択肢だと考えます。

大学時代の長期休暇は、いわゆる「遊ぶ時間」であり、長期の休みを取れる最後のチャンスでもあります。無駄に時間を使うのではなく、ぜひ旅行、特に自分の全く知らない景色や空気を味わえる場所へ行ってみてください。無理をしてでも行ってみる価値はあります。

そうした経験は、人生観を変えるきっかけになることも多いと言われています。有名な観光地でなくても良いので、気になる場所に一ヶ所でも行ってみることは、良い経験になると思います。人生の幅や許容範囲、考え方の枠が広がるという意味で、非常に有益だと感じています。

取材担当(石嵜)の感想

梅本社長からいただいた学生へのメッセージは、まさに今の自分自身が後悔していることと重なり、耳の痛いお話であると同時に、非常に心に響くアドバイスでした。

海外に行ったことがないまま大学4年生になってしまった現状を踏まえ、一歩踏み出す勇気の大切さや、行動することの重要性を改めて痛感しました

社長ご自身の経験に基づいたリアルなアドバイスは、これから社会に出る私たち学生にとって、大きな指針になると感じています。

取材担当(石嵜)の感想