Skip to content
135年、地域と育てる「毎朝の安心一杯」

2025年08月12日

株式会社共進牧場

135年、地域と育てる「毎朝の安心一杯」

共進牧場様は、兵庫県小野市に拠点を置く、135年以上の歴史を持つ牛乳・乳製品メーカーです。創業以来、「ナチュラルであること、ヘルシーであること、そして安心で安全な製品であること」という変わらぬ想いを胸に、地域の健康を支えるため、おいしい乳製品を提供することに努めています。特に、兵庫県内の小中学校には毎日牛乳を供給しており、県内の約4割、1日約17万本の牛乳を届けることで、こどもたちの健康な成長を応援しています。酪農家や社員と共に高品質な製品を届け、食の多様化に対応しながらお客様のライフスタイルに貢献することを目指しています。工場と牧場が隣接しており、見学や体験も可能です。135年以上の歩みと「ナチュラル・ヘルシー・安心安全」へのこだわり、そして地域の子どもたちを支える使命と今後の挑戦について、共進牧場の代表取締役社長 中尾 嘉延様にじっくりとお話を伺いました。

<聞き手=高橋宏輔(学生団体GOAT編集部)>


【入社の経緯と独立心】

私の祖父が共進牧場を拡大していった人物であり、その影響でいずれ会社を継ぐという意識は漠然と持っていました。しかし、学生時代に社会に触れる経験を積む中で、「会社に入るより外で自分を試したい」という思いが強く、正直に言うと祖父に会社に入れられるのは嫌でした。大学では中国経済を学び、中国に興味があったため、アルバイトで費用を貯め、親に事後報告で中国へ約1年半留学しました。

留学中、世界中の学生と交流する中で「自分がいかに日本のことを分かっていないか」を痛感しました。当時の中国や海外の学生は、日本の学生とは異なり、学びに使命感を持ち、将来のビジョンが明確でした。彼らから日本のことについて多く質問される中で、うまく答えられない自分に気づき、一度日本で社会人経験を積んでから改めて自分のキャリアを考えようと決意しました。

帰国後、中国での水産事業に触れた経験から水産業に興味を持ち、東京のベンチャー企業で水産加工品のメーカー兼商社として約6年間働きました。この会社は若く活気があり、営業として多くの経験を積めました。特に、当時まだ6店舗しかなかった業務スーパーの立ち上げ期に、大容量の業務用食品を一般向けに販売するプロジェクトに関わり、上司に反対されながらも中国の工場で商品を作り、それが全国に広がるきっかけとなったことは、最も印象深い経験です。

取材担当(高橋)の感想

中尾様が家業を継ぐという道がありながらも、ご自身の意思で海外留学や外部での社会人経験を選ばれたことに、強い独立心と探求心を感じました。若くしてアルバイトで費用を貯め、親に事後報告で留学を決める行動力は、私も見習いたいと思う部分です。海外経験を通じてご自身の未熟さや日本の魅力に気づかれたというお話は、学生である私にとって学びが多く、今後の人生設計において「外に出て自分を試す」ことの重要性を再認識させてくれました。

取材担当(高橋)の感想

【家業への回帰と社長就任】

約6年間外部で働いた後、仙台で支店長をしていた29歳の時、祖父から会社に戻るよう強く促されました。当時の仕事にもやりがいを感じていましたが、人生の節目である30歳手前であったこと、そして現在の妻との将来を考え、「今しかない」という思いで2003年2月に共進牧場に戻ることを決断しました。

家業に戻った当初は、幼少期に工場の敷地内に住んでいた頃を除けば会社とは距離を置いていたため、右も左も分からない状態でした。まずは人間関係を築くことから始めました。当時の会社は、真面目に良い製品を作り続けてきた職人気質な企業で、新しいことには積極的ではない文化でした。私がいた前のベンチャー企業とは全く異なり、乳業界も既に成熟しきっており、競争環境も全く違うものでした。

そのため、入社してからの約10年間は、営業経験しかなかった私が一から牛乳製造のものづくりを勉強することに専念しました。そして、2014年に社長に就任しました。社長になって一番感じたのは、共進牧場の商品が学校給食やスーパーを通じて地域に広く認知され、愛されているブランドであるということでした。この長く続けてきたブランドイメージを引き継ぎ、守っていくことの重みを改めて強く感じました。

取材担当(高橋)の感想

中尾様が家業に戻るまでに、外部の企業で多くの経験を積み、特に業務スーパーの立ち上げ期の商品開発プロジェクトに関わったというお話には驚きました。家業に戻られた際も、すぐに社長になったわけではなく、約10年間かけて一から製造を学ばれたという姿勢は、真摯であり、長期的な視点での事業継承の重要性を感じさせます。成熟した業界に入り、かつての勢いのある企業とは異なる文化の中で、会社のブランド力を守り、発展させていこうとされたご苦労と決意が伝わってきました。

取材担当(高橋)の感想

【変化への挑戦とブランド構築】

社長に就任してからは、まず安全安心な製品を提供し続けるため、設備投資を計画的に行い、生産体制を整えることに注力しました。当時は今よりも牛乳の利益率が低い時代だったため、収益体質の改善にも取り組みました。業界全体の価格上昇もありましたが、売上構成比率(プロダクトミックス)を見直すことで収益性を向上させることができました。

共進牧場の強みは、スーパーだけでなく、学校給食、病院食、業務用牛乳など、多様な販路をしっかり持っている点です。特に病院食向けの需要は大きく伸びています。新商品開発では、2022年に「リッチザヨーグルト」を発売しました。これは「クリームチーズのようなヨーグルト」というコンセプトで、高カロリーではあるものの、デザート感覚で楽しめる大容量のヨーグルトとして開発しました。

当初は売れ行きが芳しくありませんでしたが、ある美容インフルエンサーが美味しいと評価したことで、注文が殺到し、生産が追いつかないほどの看板商品となりました。お客様の口コミにより広まった成果です。また、地域に根差した活動として、牛乳パッケージの一部を広告欄にし、警察や消防署、神戸新聞社、プロサッカーチームのヴィッセル神戸等とコラボして、交通安全や食育、健康作りなどのメッセージをこどもたちに届けています。工場と牧場が隣接している強みを活かし、工場見学や体験を通じて、お客様に製品をより身近に感じてもらう取り組みも行っています。

【未来への展望と人材育成】

今後の課題としては、やはり人口減少や少子化による牛乳需要の減少が挙げられます。小学校の給食だけでも毎年1%弱、本数が減っている状況です。一方で、健康志向の高まりや安全安心への要求も高まっており、これに応える形で病院向けの機能性乳製品など、新たな需要も増えています。

牛乳の栄養価は非常に優れており、人々の健康な身体づくりに貢献できる可能性はまだまだ大きいと考えています。地域で高品質な牛乳を製造できる会社は今後ますます必要とされるでしょう。だからこそ、地域に根差した形で、安全安心なものづくりを徹底し、親しまれるメーカーであり続けることが重要だと考えています。特に、食品業界は一つ大きな事故を起こすと会社が一気に信用を失うリスクがあるため、安心安全なものづくりは最も重要です。

当社は今後10年、15年を見据え、製造拠点である工場の建て替えという大きな事業を計画しています。成長市場であるヨーグルトの工場増設も視野に入れており、より多くのお客様にも十分な量を提供できる体制を整えたいと考えています。創業150年までには新工場を完成させることが私の目標です。乳業界は私が戻ってからの20年でも大きな変化がありましたが、今後も変化に対応しながら進んでいく必要があります。

若い社員には、新工場を任せられるレベルに成長してもらいたいと考えています。そのため、できるだけ早い時期から良い経験を積めるよう、レベルアップできる環境作りを会社として進めていきたいと思っています。牛乳を作るという昔からの精神は変わりませんが、安全安心で美味しい製品を作り続けることを継続しながら、地域に愛される牛乳を作り続けることが、これからの私たちの使命だと考えています

取材担当(高橋)の感想

人口減少や少子化といった社会課題に対し、具体的な数字を挙げてお話しくださったことで、業界を取り巻く環境の厳しさと同時に、新しい需要開拓への強い意識を感じました。工場の建て替えやヨーグルト工場の増設といった大規模な投資計画が、「若い社員が活躍できる環境を作る」という人材育成のビジョンと結びついていることに感銘を受けました。

安全安心への徹底したこだわりと、地域に愛され続ける企業でありたいという中尾様の言葉は、共進牧場様の根底にある揺るぎない精神を強く感じさせ、私たち学生にとっても「社会貢献」とは何かを深く考えるきっかけとなりました。

取材担当(高橋)の感想