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地域と未来を創る:2社長が語る生涯顧客の追求と挑戦の組織文化

2025年10月06日

有限会社たしろ

地域と未来を創る:2社長が語る生涯顧客の追求と挑戦の組織文化

島根県松江市・出雲市、鳥取県米子市に6店舗を展開する美容室TASHIROは、1970年に島根県松江市で「美容室たしろ」として創業しました。ヘア・エステ・ネイル・まつエク・コスメ・美容機器のトータルビューティを提供しており、「山陰の女性を美しく」をミッションに掲げています。創業以来、2世代3世代にわたるお客様との深い絆を大切にしており、地域に深く根差した企業文化を持っています。今回は、「山陰の女性を美しく」という想いを軸に、地域に根ざした多角的なサービス展開の背景、そして次世代へと続くTASHIROの未来ビジョンについて、代表取締役社長・田代様にじっくりとお話をお伺いしました。

<聞き手=高橋宏輔(学生団体GOAT編集部)>


【創業の背景と戦略的なキャリア選択】

当社の創業は1970年です。父と母はともに美容師で、東京で出会い、その後、母の故郷である島根県に戻り、松江市で開業しました。当時(1970年代)は男性美容師が非常に少ない頃で、父は松江で2人目の男性美容師として珍しがられ、時代に乗って店舗を増やしていきました。両親には、美容室を美容師の扱いを超えて、企業として成長させていきたいという強い意思がありました。私自身は松江で生まれ育ちましたが、すぐに家業を継がず、関東の大学に進学し、美容師にならずに大学生をしました。卒業後、家業を継ぐ前に自分の夢を追い、他の会社で約2年間働いたのですが、継ぐことを決意してからも、すぐに地元へ戻ることはしませんでした。

私は、美容業界のトップメーカーであるタカラベルモントの、化粧品事業部ルベル(シャンプーやカラー剤などを販売)に就職し、戦略的にメーカー側での経験を積むことを選びました。メーカー営業として、東京や大阪の多数のサロンを俯瞰的に見る経験を6年間積むことができました。業界全体の構造や内容が概ね理解できた30歳頃に地元へ帰郷し、当社に入社しました。このメーカーでの6年間の経験は、その後の経営戦略を立てる上で非常に重要な下積みとなっています。

取材担当者(高橋)の感想

田代社長がすぐに家業に入らず、まず業界トップメーカーで業界全体を俯瞰的に見る経験を積んだという経緯は、キャリアを考える上で非常に戦略的だと感じました。自分の人生の目的や方向性について悩み、外部で経験を積んでから家業に戻るというプロセスは、多様な選択肢を持つ現代の若者にとって、自分の進む道を明確にするためのヒントとなるのではないでしょうか。特に、業界を外部から客観的に見る経験は、経営者としての視座を高める上で不可欠だったと考えられます。

取材担当者(高橋)の感想

【時代の変化に対応したトータルビューティ化と新たな挑戦】

私が当社に入社して以降、トータルビューティ化を積極的に推進してきました。この取り組みを始めた大きな要因の一つは、美容師の人材不足という業界全体の課題でした。美容師の成り手が年々減少し、安定した人数が確保できなくなっていたためです。

当社はブライダル事業も行っていたので、花嫁様からネイルやブライダルエステの要望が多くありました。そのため、ブライダルの仕事の関係で、その関連分野に事業を広げられると考えました。ネイルやエステなどの分野は、美容師とは異なり国家資格が不要、社内で教育して比較的容易に人材を育成できるというメリットがありました。これにより、美容師以外の専門分野も提供できる体制を整え、お客様の「キレイになりたい」という多様な要望にワンストップで応えられるトータルビューティサロンへと進化できました。

さらに近年、コロナ禍の影響でブライダル事業の売上がピーク時の6割程度にまで落ち込みました。この売上減を取り返すため、当社は新しいチャレンジとして理容部門(メンズビューティ)の導入を決定しました。昨年の本店移転時には、従来の美容室に加えて、理容室を併設しました。

これは、男性の美容意識の高まりに対応し、従来の女性中心(約85%)だった顧客層から男性客を取り込み、事業規模を維持・拡大するための戦略です。現在、コロナ前の売上よりも上がっています。また、コロナ禍では、50周年記念事業として、コロナの影響を受けた医療従事者や学生を招待し、1385名の方に無料奉仕を行うなど、地域貢献活動も実施しました。

取材担当者(高橋)の感想

ブライダル事業の衰退という大きな危機に対し、立ち止まらず、理容部門導入という新たな挑戦で活路を見出し、売上をコロナ禍以前よりも高めたという事実に、経営者の強い意志と実行力を感じました。また、地域全体で美容師の成り手が不足しているという課題を、トータルビューティ化や理容導入によって多角的に解決しようとする柔軟な発想力も魅力的です。時代の変化に合わせて事業構造を変えていく姿勢は、就活生が企業を選ぶ際に重視すべき「変化対応能力」を体現していると思います。

取材担当者(高橋)の感想

 【深刻な地域課題への対応:独自の修学支援制度による未来への投資】

私たちが事業を展開する島根県松江市では、美容師の人材不足が非常に深刻な問題となっています。松江市には美容学校が1クラスしかなく、卒業生の大半(約20人)が都会に出てしまうためです。松江・出雲エリアで新しく美容師になるのは年間わずか10人程度しかいない状況にもかかわらず、この地域には2000件以上の美容室が存在します。以前は都会の美容学校に行っても帰ってくるパターンが多かったのですが、今はほとんどが都会で就職してしまうという現状があります。

この業界全体の課題に対し、当社では「オリジナル修学支援金制度」を創設し、未来の美容師を育成するための支援を行っています。美容学校の学費は年間100万円以上と高額であり、金銭的な理由で夢を諦めることがないように導入しました。この制度は、高校生や美容学校の1年生(入学希望者)を対象に、入学前に面接を行い、合格者には入学時に年間50万円ずつ、2年間で合計100万円を貸し出します。最大のポイントは、当社に5年間勤務すれば、この100万円の返済が全額免除されるという点です。利子は一切いただかないため、もし返済が必要な場合も、お返しいただければ結構ですという形になります。

また、通信制で美容師を目指す学生に対しても、3年間で75万円の修学支援を行っています。高校卒業後すぐに当社に入社して働きながら美容師を目指す道も提供されており、実際にその方法で美容師を目指している方がおります。なかなかこういう制度を設けているサロンは珍しいと思います。

取材担当者(高橋)の感想

美容師になりたい若者の金銭的な障壁を取り除くために、企業が独自の制度を設けて支援している点は、他にはない大きな魅力だと思います。都会への人材流出が続く地方において、企業が自ら未来の担い手を育てるために長期的な投資を行う姿勢は、当社の地域社会と人材に対する強い責任感を示しています。この手厚いサポートは、美容師を目指す学生にとって、夢を諦めずに挑戦するための強力なバックアップとなるでしょう。

取材担当者(高橋)の感想

【長期的な目標:生涯顧客の実現と若手によるボトムアップ革新】

当社の長期的な目標は、「生涯顧客」を増やしていくことです。これは、お客様と一生涯を通じてお付き合いさせていただくことであり、「人生を美しく生きるために、お客様と生涯長くお付き合いしたい」というコンセプトに基づいています。創業以来55年近くやっておりますが、お客様の七五三から始まり、成人式、結婚式、そしてそのお子様の七五三まで、人生の様々な節目に立ち会わせていただいています。

この「生涯顧客」の実現のため、地域で求められるオールマイティなサービス、すなわちヘア、エステ、ネイル、理容といったトータルビューティを「ワンストップ」で提供できる体制をさらに強化し、「一生の長いお付き合いができるサロン作り」を目指しています。都会のサロンと違って、地域のサロンはオールマイティなサービスが求められるからです。家族ぐるみで利用してもらうことを促進するため、男性も来店しやすいメンズブース(理容室)の設置などの工夫をしています。

社内においては、今期のスローガンとして「全員参加」と「ボトムアップ」(社内の底上げ)を掲げ、組織の革新を進めています。これまではトップダウン的な動きが中心でしたが、もうちょっと下から意見が上がってきて改革が行われていくような会社にしたいと思っています。特に、若手社員の「発想力」や「柔軟な新しい発想」を尊重し、若い子の意見を吸い上げる体制を構築しています。

経験の浅い若い社員には、失敗を恐れずにチャレンジし、新しい発想を出していってほしいと思っています。特に、入社したばかりだからこそ気づける、「社内の変な常識」を変えていく力を求めています。私はミーティングでは、より会社を良くしようという意見であれば、立場に関係なく受け入れ、絶対に否定はしないというのをみんなに常に言っています。

例えば、若い店長が、今までは営業後にやっていたレッスンを、最後の客が一人になったら空いているスペースで掃除が終わる前に始めた方が、時間の効率性から見て良くないかという発想を出してくれました。こういう時間の効率性を考える能力は今の子たちの方があるのではないかと思っています。経験がなくても、入ったばかりだから気づけることっていうのは絶対多いので、それを大切にしていただきたいと思っています。

取材担当者(高橋)の感想

お客様の人生の節目に深く関わり続ける「生涯顧客」という目標は、非常に感動的です。単なる技術者ではなく、お客様の人生に寄り添うパートナーとして信頼関係を構築していく姿勢に、地域密着型企業の理想形を見ました。また、社内の「ボトムアップ」を推進し、若い世代の発想力や時間の効率性を意識する能力を積極的に取り入れようとしている企業文化は、私のようなZ世代にとって非常に魅力的です。経験不足に不安を感じる若手社員に対して「間違っててもいいからチャレンジしてほしい」という田代社長のメッセージは、私たちが持つ新しい発想を、遠慮なく発揮できる土壌があることを示唆していると感じました。

取材担当者(高橋)の感想