多くの人にとって身近でありながら、その実情がなかなか見えにくい介護業界。しかし、その中で利用者様も社員も、そして地域社会全体も「愛と笑顔」で元気にしようと、独自の哲学と革新的な取り組みで業界に新たな風を吹き込んでいる企業があります。熊本県を拠点に、有料老人ホームや特別養護老人ホーム、デイサービスなど計8施設を運営する芳寿会グループ(株式会社スローライフ芳寿会様)は、まさにその先頭を走っています。
創業者の「サービスは高く、負担は軽く」という理念を継承し、高品質なサービスと手厚い職員への還元を両立。利用者様には安心して暮らせる場所を、そして職員にはやりがいと輝ける環境を提供しています。今回は、2年前に事業を承継した徳永社長に、その独自の経営哲学や未来への展望について伺いました
<聞き手=高橋宏輔(学生団体GOAT編集部)>
【事業承継と組織変革への挑戦】

2年前の6月に父から事業を引き継ぎ、社長に就任いたしました。会社は父が公務員を早期退職し、デイサービスからスタートしたものです。地域の方々からの「安心して暮らせる場所を建ててほしい、終の棲家を作ってほしい」という声に応え、最初の施設がオープンしました。父が築き上げてきた会社を継ぎ、株式会社の6施設を運営しています。
社長に就任してからは、人材育成・人材教育に力を入れようと決意し、職員一人ひとりに光を当てる成長できる環境づくりを進めました。
働き方改革も重要なテーマでした。以前は月1回各施設を回る社長訓示が早朝から夕方まで行われ、全職員の参加を求められる雰囲気でしたが、現在は早出・遅出が重なる勤務時間内に行い、休日や夜勤の職員には引き継ぎを行う形式に変更しました。また、新卒採用にも力を入れ、メンター制度を充実させ新たな風を吹き込むことに注力しました。
取材担当(高橋)の感想
私と同じ世代にとって、「働き方改革」や「人材育成」は会社を選ぶ上で非常に重要なポイントです。徳永社長が、受け継いだ会社をより良い形に進化させようと、社員の働きやすさや成長に真摯に向き合っている姿勢に深く共感しました。特に、社員が「輝く場所を作る」という社長の言葉は、これからのキャリアを考える上で、心に響くものがありました。

【介護業界のイメージを超えるやりがい】

介護業界に対して、「きつい」というイメージがあることは私自身も認識しています。確かに、私たちの仕事は決して楽なものではありません。職員は皆、日々学び、研修にも積極的に参加し、専門性を高めています。しかし、私たちは面接の段階から、この仕事が簡単ではないことを正直に伝えています。それでも、この仕事には何物にも代えがたい「やりがい」があります。
利用者様から直接「ありがとう」という感謝の言葉をいただけることが、私たちの最大の喜びです。採用した新卒者は、今のところ一人も辞めていません。これは私たちの強みであり、職員が仕事にやりがいを感じ、長く働ける環境があることの証だと考えています。
取材担当(高橋)の感想
介護業界の厳しいイメージがある中で、徳永社長が正直に「楽な仕事ではない」と伝えつつも、それ以上に「ありがとう」がもらえる仕事の喜びを語られていたのが印象的でした。祖母の介護経験から、私も介護職の方々に尊敬の念を抱いているので、この仕事の真の価値がもっと世の中に伝わるべきだと改めて感じました。

【利用者負担の軽さと職員への還元を両立する経営戦略】

熊本県は全国的にも所得水準が低い地域ですが、私たちの会社では新卒の介護職員でも平均年収が約380万円という高い給与水準を実現しています。これは、決してやみくもに高額な費用を利用者様からいただいているわけではありません。創業当初からの「サービスは高く、負担は軽く」という理念に基づき、綿密な経営計画を立てています。
例えば、入居費用は他の施設と比較しても「圧倒的に安い」と自信を持って言えます。年金収入が少ない方であっても、安心して利用できるよう、ご家族に負担をかけない価格設定にしています。この低価格を実現するため、私たちは常に95%以上の高い入居率を維持しています。高い入居率を支えているのは、職員一人ひとりの努力に他なりません。職員は「目配り、気配り、心配り」を大切にし、利用者様が長く快適に楽しく暮らせるよう、きめ細やかな連携を取りながらサービスを提供しています。医療、介護、生活支援を一体化させた体制も、質の高いサービスに繋がっています。職員の健康にも目を向け、45歳以上の大腸内視鏡検査の全額会社負担や永年勤続者への海外研修など福利厚生いよる職員の満足が顧客満足に繋がるという考えのもと、職員への手厚い還元も行っています。
取材担当(高橋)の感想
利用者様の負担を抑えつつ、職員には高い給与を支給するという経営戦略は、本当に驚きでした。これは、単に利益を追求するだけでなく、社会貢献と職員の幸福を深く考えているからこそできることだと感じました。熊本県でトップレベルの低価格でありながら高品質なサービスを提供しているのは、経営者としてだけでなく、人としての温かさも持ち合わせている徳永社長だからこそだと深く感銘を受けました。

【未来へのビジョンと「遊び心」ある挑戦】

私たちの会社は、現在運営している老人ホームの枠を超え、未来に向けて多様な事業展開を構想しています。具体的には、障害者施設の設立を視野に入れ、私自身が理事長を務めている認定こども園の運営も行っていることから、「赤ちゃんからお年寄り、障害者の方まで」、全ての世代の人々が安心して暮らせる社会をこの会社で実現したいという思いがあるからです。食の面では、質の高い食事を安定して提供できるセントラルキッチンのような給食センターの構想も進めています。さらに、職員が新たな活躍の場を見つけられるような取り組みも始めています。
今年1月には、飲食店として「青春ホルモン食堂」をオープンしました。これは、介護現場の業務が難しくなった職員でも、接客スキルを活かして輝ける場所を提供したいという思いから生まれたものです。ホルモンは提供時間が短く、職員の負担が少ないという点も考慮しました。職員がジムに行く費用を一部負担していることから、「マッスルホルモン食堂」のようなイベントも企画しています。職員の身体づくりを支援し、その成果を披露できる場を作ることで、みんながさらに輝ける機会を提供したいと考えています。これらの事業には、私自身の「おてんば」な幼少期から来る「遊び心」が活かされているのかもしれません。
取材担当者(高橋)の感想
ホルモン食堂のオープンや「マッスルホルモン食堂」の企画には、純粋にワクワクしました。介護業界というイメージから一見すると意外な発想ですが、社員の個性や情熱を活かす場を作ろうとする社長の「遊び心」と「創造性」が溢れています。このような自由な発想が、社員のモチベーションや働きがいにもつながるのだと強く感じました。

【徳永様から学生・Z世代へのメッセージ】

学生の皆さん、特にZ世代の皆さんには、伝えたいことがたくさんあります。私自身、学生時代には辛い経験をたくさんしましたが、そこから立ち上がるためにとにかく多くの本を読みました。大人になると、本を読む時間はなかなか自分で作らないと確保できません。だからこそ、学生時代にたくさんの本を読んで、知識や経験、知恵を蓄えてほしいと思います。また、表面的な付き合いだけでなく、心から信頼できるような年上の方々と深く交流する時間も大切にしてほしいです。その方々との出会いが、皆さんの人生にとってかけがえのない財産となり、未来の強みになるはずです。
そして、私が最近特に感じるのは、批判をしないことの重要性です。知らないことに対してすぐに批判的になるのではなく、相手の考えを一度受け入れ、そこから自分自身の学びとする姿勢を持つことが大切です。世の中にはマイナスな情報も溢れていますが、良いところに目を向け、それを伝えていける若者が「最強の若者」だと私は考えています。皆さんの若い時間は、二度と戻らないかけがえのない時期です。ぜひ、この貴重な時間を最大限に活用してください。
取材担当者(高橋)の感想
徳永社長からいただいたアドバイスは、私を含め多くのZ世代が直面している課題への示唆に富んでいました。特に、安易な批判に走らず、他者の考えを受け入れ、良い点を見出すことの重要性は、SNSが普及した現代において、強く意識すべきことだと感じました。この貴重な学びを、今後の活動や人生に活かしていきたいです。
