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創業130余年の老舗菓子問屋4代目が語る、変革と挑戦の軌跡

2025年05月28日

株式会社青木光悦堂

創業130余年の老舗菓子問屋4代目が語る、変革と挑戦の軌跡

株式会社 青木光悦堂は、創業百三十年余りの歴史を持つ菓子卸売業です。臨済宗総本山建仁寺の御用達として納豆の製造から始まり、現在は菓子職人の魂のこもった『心なごむ故郷の銘菓』を通じ、お客様の喜びを創造することを創業の精神としています。年間約2,000アイテム、約170万袋を販売しており、日本を代表する大手商社から地域密着型まで多様な企業が存在する菓子卸業界において、1200年の歴史を持つ京都で商いを続けています。

事業の柱としては、北海道から九州のこだわりスーパーマーケットを中心に、日本の伝統的な乾き菓子やオリジナルの「心なごむ故郷の銘菓」を販売する卸売事業を展開しています。また、高齢者施設向けに食べやすいお菓子を提供する「カシデリ事業」や、オンラインショップを通じたEC事業も手がけています。本物のお菓子と共に信用と感動を売っている喜び創造企業であり、世の中になくてはならない「頼られる、愛される」会社でありたいと考えています。従業員一人一人が自分自身の大切さに気づき、お客様に感謝し、「心なごむ故郷の銘菓」に携わる全ての人に幸せと喜びを提供することを目指しています。経営や事業について今回は、代表取締役社長の青木様からお話をお伺いしました。

<聞き手=丸山素輝(学生団体GOAT編集部)>


【青木様の今までの経緯や背景】

私は現在58歳で、36歳で4代目に就任しました。大学卒業後、名古屋の大きな食品問屋で約3年間修業し、26歳で実家である青木光悦堂に入社しました。入社から36歳までの10年間、父親と一緒に仕事をしていました。父親が68歳頃になり、「そろそろ変わろうか」ということで、私が後を継ぐことになったのです。

家業を継ぐことは生まれたときからの既定路線のようなものでしたが、大学に入って「好きにしていいよ」と言われた時、依存していた私は何をしたいか全く分からず、目標を見失い、一時的に家を出たこともありました。

就職活動の際も、自分で見つけた会社への就職を父に否定され、結局父の勧める名古屋の問屋で働くことになりました。当時は親が嫌いで、憎くて仕方がありませんでした。名古屋での修業でスーパーマーケットなど大型店との取引を経験し、実家に戻った際、実家の小規模な商売のやり方を見て、「なんと小さな仕事をしているんだ」と父親を見下すような時期もありました。

しかし、30歳頃、商売に行き詰まりを感じていた時に、ある講演会で聞いたディズニーランドのサービスに関する話が転機となりました。お子様ランチの注文に関するエピソードを聞き、ルールにとらわれずお客様に寄り添う姿勢に心が震え、「私はこんな商売がしたい、こんなお客様と付き合いたい」と強く感じました。

そこから、大手メーカーの商品を早く安く売るだけの商売から脱却し、「あなたから買いたい」「青木から買いたい」と言ってもらえる会社にしたいと思うようになりました。そして、職人の思いがこもった原材料にこだわった、リピートしてもらえるようなオリジナル商品の開発へと大きくシフトしていったのです。

取材担当者(丸山)の感想

青木社長のお話は本当に面白く、お聞きしていて引き込まれました。多くの経験をされたからこその柔軟な考え方や、転機を経て目標を定めたプロセスは、今の学生にとって大きな学びになると感じました。

取材担当者(丸山)の感想

【株式会社 青木光悦堂の事業・業界について】

弊社の事業は基本的に菓子卸売業ですが、現在は工場を持たないファブレスメーカーのようなポジションを目指しています。主力である卸売事業では、こだわりを持ったスーパーマーケットを主なターゲットとしています。

近年は百貨店など、通常の量販店よりも品揃えにこだわる店舗にも販路を広げています。主な顧客層は50歳以上の方々が中心で、「うちのお菓子はなぜか口に合う」と言っていただけるような、原材料や製法にこだわった商品づくりを大切にしています。

約10年前に始めた「カシデリ事業」は、高齢者施設向けのおやつ宅配システムです。SWOT分析を行った際、高齢者向けのお菓子が多いにも関わらず、当時の主要販路であったファミリー層中心のスーパーマーケットではミスマッチであると指摘されたことがきっかけでした。

高齢者の集まる場所として老人ホームを訪問し、お菓子の提供状況をヒアリングしたところ、毎日同じようなお菓子しか提供されていない現状を知り、弊社であれば365日違うお菓子を提供できることから、この事業が生まれました。

この事業は開始から10年を経て、会社全体の売上の約2割を占めるまでに成長しています。お菓子の製造自体は職人の方々にお願いしていますが、職人の思いや原材料、製造ラインへのこだわりを重視し、リピートしていただける商品づくりをコンセプトとしています。単に商品を売るだけでなく、取引先の方々と商品開発のプロセスを共に楽しみながら、良いものを作り上げていくことを大切にしています。

この考えに基づき、スーパーマーケットの店舗内で青木光悦堂の商品が並ぶコーナー展開なども行っています。

取材担当者(丸山)の感想

会社の利益を第一に考えるのではなく、ワクワクする売り場作りや面白い提案をすることで、 お客様やお取引企業様に喜んで頂き、後から会社の利益に繋がっていくという文化や価値観が魅力的だと思いました。

また、自社の事業以外でも日本を元気にする・よくする為に何かできることはないのかという視点から、様々なチャレンジをされていて社会貢献や従業員様のやりがいにも繋がる魅力的な事業ばかりだと感じ、学生が会社選びをする・自分の人生の目標を決める上で非常に勉強になるのではないかと思います。

取材担当者(丸山)の感想

【青木様が大切にしていること】

私が経営者として大切にしていることは、「経営は全ての人を幸せにするシステムである」という考え方です。これは約10年前に研修で学んだことですが、経営は自分のためだけのものではないと気づかされました。

従業員が働くことでスキルアップしたり、給料が増えたり、休みが増えたりすることもそうですし、取引先の皆様にも生き生きと商売を続けてもらうことを願っています。

取引先が新しい挑戦をする際に、弊社が持つ小売店の情報を提供したり、補助金制度の活用をアドバイスしたりすることで、共に成長できる関係性を築くことを目指しています。

単に商品を仕入れて売るだけでなく、人との繋がりを大切にし、商品がお客様の手に届き、喜んでいただけるまでのプロセスを一緒に楽しむことが最も大切だと考えています。数字を追求することはもちろん必要ですが、それ以上に「人」を大切にする気持ちが重要だと感じています。

また、新しいことに挑戦する際は、「何でもやってみよう」という精神を大切にしています。もちろん、全く調べないということはありませんが、ある程度情報を集めたら、まずはやってみることが重要だと考えています。

始めてみて、PDCAサイクルをひたすら回しながら修正を重ねていけば、必ず形になります。完成度を高めるために考えすぎている間に、まず行動した人は失敗を重ねて先に進んでいます。早く失敗した方が、ゴールにたどり着く可能性は高くなるのです。スピードを落とさず、常に学び続ける姿勢も不可欠です。

取材担当者(丸山)の感想

数字だけでなく、お客様や一緒に仕事をする人を大切にする青木社長の経営姿勢に感銘を受けました。業界の課題に対しても「まずはやってみる」という考え方は、情報に溢れて動けなくなってしまう自分含めて学生にとって、特に響くものがあると感じました。

取材担当者(丸山)の感想

【株式会社青木光悦堂の今後の展望】

現在のカシデリ事業は高齢者施設向けが中心ですが、今後は在宅の高齢者の方々への対応ができていないことに課題を感じています。嚥下困難者(飲み込みが難しい方)向けの商品についても、つい最近になってようやく集めることができるようになりました。

今後は、食べるものに関する「シルバー本舗」のような、高齢者向けの小売展開をしていきたいと考えています。現在、困っている在宅高齢者やそのご家族は多くいらっしゃいますが、そういった方のニーズと、飲み込みやすい料理を作れる方の情報や供給が整理されていないのが現状です。

将来的には、困っている人が必要な情報を得て商品を購入できたり、料理を作れる人がそのスキルを提供できたりするような、情報集約やマッチングの仕組みを作りたいと考えています。冷凍餃子の無人販売のように、特定のニーズを持つ人にとっては非常に価値があり、販売が広がる可能性もあると感じています。

また、日本はこれから高齢化が進む一方で人口が減少していきます。現在の主要顧客である50歳以上の層は向こう10年ほどは市場が維持されるかもしれませんが、その先を見据えると、インバウンド向けや海外への展開を本格的に始める必要があると考えています。

特に、人口の平均年齢が若い国々はエネルギーに溢れており、食べるものの市場としても魅力的です。人口が減る市場よりも増える市場へ向かって商売を展開していくことが重要だと考えています。

現在はBtoBが中心ですが、これからはBtoCの事業も増やしていきたいと考えており、Web販売などにも力を入れていく必要があると感じています。

取材担当者(丸山)の感想

今後の展望として語られた、在宅高齢者や嚥下困難者向けサービス、そして「シルバー本舗」構想は、高齢化が進む日本社会において、非常にニーズが高く、社会貢献性の高い取り組みだと感じました。

伝統あるお菓子問屋の知見を活かしながら、社会課題の解決を目指す姿勢は、まさに青木社長が大切にされている「全ての人を幸せにするシステム」 という経営理念の実現であり、大変感銘を受けました。今後の事業展開がますます楽しみになりました。

取材担当者(丸山)の感想

【青木様から学生へのメッセージ】

学生のうちにやっておいた方が良いと思うことは、いくつかアルバイトを経験することと、無理やりにでも海外へ行くことです。

アルバイトを通じて様々な仕事や人を知ることは将来に繋がります。海外経験は、自分の視野を広げ、多様な価値観に触れる良い機会になります。特に日本人は主張することが苦手だと言われますが、海外では自分を表現することの重要性を肌で感じることができるでしょう。部屋に閉じこもらず、人と喋り、何かを作り、知らない場所に身を投じることに時間をたくさん使って欲しいと思います。

就職活動については、焦る必要はないと考えています。自分のしたいことが見つからないまま、一生懸命に求人情報を見ても、実際には見つかりにくいものです。とりあえず内定を得るために決めてしまうと、入社後にやりたいことと違う、上司と合わないなど、ミスマッチが起きて辞めてしまうケースも少なくありません。

もし迷っているなら、一度弊社の様な会社に来て、色々な話を聞いたり、実際の社会に身を置いてじっくり考えてみるのも一つの方法です。何も、すぐに全てを決める必要はありません。

何か新しいことを始める時、ある程度の情報収集はもちろん必要ですが、調べすぎて動けなくなってしまうのはもったいないです。完璧を目指すのではなく、最低限の情報を持ってまずは前に向かって歩き出すことが大切です。

そして、早い段階で失敗を経験することも重要です。失敗から学び、修正を重ねることで、より早く目標にたどり着くことができます。常にスピード感を持ち、学び続ける姿勢を忘れなければ、簡単に人に追い抜かれることはありません。

取材担当者(丸山)の感想

青木社長の「行動力」と「まずやってみる」という考え方は、情報過多で動けなくなる私たち学生にとって、大変学びになりました。

海外経験や様々な人との関わりの重要性についてのお話も、視野を広げることの大切さを改めて感じさせてくれました。迷っている学生への寛大なメッセージも、多くの学生の心に響くと思います。

取材担当者(丸山)の感想