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「手作業の技×正直な仕事で、魚の未来を切り拓く」

2025年05月28日

有限会社 天洋水産

「手作業の技×正直な仕事で、魚の未来を切り拓く」

長崎県雲仙市、千々石海岸沿いに位置する有限会社 天洋水産は、九州全域で水揚げされた鮮魚や冷凍魚の卸売、および水産加工を手掛ける企業です。創業から約40年にわたり、徹底した衛生管理と手作業へのこだわりを貫き、多様なニーズに応える商品づくりを行っています。アジ、ブリ、タイなどの定番魚から、イカ、アナゴ、フグ、チョウザメなど、豊富な知識と経験を活かしてどのような魚でも卸・加工が可能で、安心・安全な水産加工を通じて、美味しい魚を長崎から全国へ届けています。
今回は、代表取締役社長 濱﨑様から事業や経営についてのお話をお伺いしました。


<聞き手=石嵜渉(学生団体GOAT編集部)>

【濱﨑様のこれまでの経緯や背景】

私は高校卒業後、都内の大学に進学し、卒業後は都内の新卒採用をメインとする会社で営業職として約10年間働いていました。父が天洋水産を経営していたため、いずれ家業を継ぐというイメージは子供の頃からありました。

そして、10年ほど経った頃に長崎に戻り、去年の8月に父から会社を引き継ぎ、代表に就任しました。
家業を継ぐこと自体に特にネガティブなイメージはありませんでしたが、戻ってきてその仕事の進め方を見て、アナログな点が多いことに驚きました。

例えば、事務員さんがお客様に発注書を出す際も手書きで行っていたり、お客様とのやり取りも主に電話でした。電話でのやり取りは「言った、言わない」のトラブルや聞き漏らしが多く発生しがちです。

そこで、会社に戻ってからはまずそういったアナログな部分の変革に取り組みました。お客様とのやり取りを全てメールにし、内容を文章で残すようにしました。また、発注内容などをデータベース化し、当たり前のことですが、それが社内では当たり前ではなかったため、そういった仕組み作りを進めました。

取引先との認識違いを防ぐため、発注前に内容や納期を事前に確認する一手間を入れるなど、外部での経験で培った習慣を社内にも導入しました。

取材担当者(石嵜)の感想

社長が学生時代から家業を継ぐことを意識されていた点、そして実際に家業に戻られてから、これまでの経験を活かして社内のアナログな文化を変革されたというエピソードは、大きな企業で働くことと家業を継ぐこと、それぞれの経験がどのように活かせるのかを考える上で非常に参考になります。

当たり前だと思っていたことが当たり前ではなかった環境で、改革を進めることの難しさと重要性を感じました。

取材担当者(石嵜)の感想

【有限会社天洋水産の事業や業界について】

弊社はこれまで、企業からの委託加工(OEM)を100%メインとして事業を行ってきました。この形式だと、売上は取引先の企業からの発注ベースに依存してしまうため、企業の動きが鈍くなると直接的に影響を受けてしまいます。

特にコロナ禍においては、お客様の動きが鈍くなり、企業からの発注が落ち込むという状況を経験しました。
そこで、新しい事業の柱として、自社ブランドの商品開発と一般消費者向けの直接販売を考え、長崎に戻ってきてからこの取り組みを始めました。現在は、従来のOEM事業に加え、ECサイトでの販売にも力を入れています。これにより、企業だけでなく、一般のお客様にもオンラインで商品をお届けできるようになりました。

当社の最大の強みは、長年培ってきた技術力です。魚を三枚に下ろしたり骨を取ったりする機械もありますが、機械では魚の食べられる部位を3割程度しか取れない場合があります。しかし、当社の手作業による加工では、骨の位置などを熟知しているため、約4割の可食部を取ることが可能です。

このたった1割の違いが、年間何トンという量になると取引先の利益に大きく影響するため、価格面で他社と競合しても、当社の技術力を求めて依頼してくださるお客様がいるのです。これは、機械では対応しきれない魚ごとの微妙な個体差に、人間の手が丁寧に対応できるからこその強みだと考えています。

取材担当(石嵜)の感想


これまでOEM中心だった事業に加えて、自社ブランドでのEC販売という新たな柱を立ち上げられた点に、変化に対応し挑戦される姿勢を感じました。

特に、機械に頼らず手作業にこだわることで、他社には真似できない高い技術力を維持されているというお話は、目に見えにくい部分にこそ本質的な強みがあるのだと気づかされ、非常に勉強になりました。

取材担当(石嵜)の感想

【有限会社 天洋水産の今後の展望】

今後の事業としては、まず現在のOEM事業を着実に継続・拡大していくことを考えています。並行して、ECサイトでの自社ブランド商品を増やし、OEM事業に偏っている売上比率(現状は約9対1)を改善し、バランスを良くしていきたいと考えています。具体的な数字の目標としては、現在の年商を倍増させることを目指しています。

自社ブランドのターゲット層については、現在、私自身も子育て世代であることから、料理にかける時間がない中でも、簡単に魚を食卓に取り入れたい子育て世代の女性を主なターゲットにしています。骨がなくそのまま焼くだけで済むような商品は、そういったニーズに応えるものです。

また、最近他の人と話している中で、新たなターゲット層として筋トレやフィットネスに関心のある「トレーニー」層がいることに気づきました。彼らは高タンパクな食事を求めており、鶏肉のささみなどをよく食べますが、魚も良いタンパク源としてニーズがあるようです。今後は、そういった方々向けのターゲット商品を開発することも検討しています。

地域について言えば、雲仙市では私と同世代(30代後半から40代)で家業を継ぐために戻ってきている経営者も増えています。そういった同世代の仲間と集まって、自分たちの会社だけでなく、地域全体をどのように盛り上げていくか、といったことについても話し合っています。

取材担当(石嵜)の感想

既存事業を維持しつつ、新たなターゲット層を開拓して自社ブランドを成長させていくという戦略は、変化の激しい時代において企業の成長に不可欠だと感じました。子育て世代やトレーニーなど、具体的な顧客像を設定し、そのニーズに合わせた商品開発を考えられている点も、マーケティングの視点から学びが深いです。

同世代の経営者と地域の未来について話し合われているというお話は、自分のことだけでなく地域貢献も視野に入れている姿勢が素晴らしいと感じました。

取材担当(石嵜)の感想

【濱﨑様から学生へのメッセージ】

私は新卒で東京の会社で10年間働き、そこから長崎に戻って家業を継ぎました。家業に戻った当初は、社内のアナログな体制に驚き、自分で新しい仕組みを取り入れていきました。

OEMだけでなく自社ブランドを立ち上げるという、それまで会社にはなかった事業もゼロから作り上げました。分からないことは、その分野で経験のある友人や知人に積極的に聞くようにしています。

また、経営者として最も大切にしているのは、「正直な仕事、正直な商品」をお客様に届けることです。たとえ産地偽装などが可能であったとしても、そのような不正は絶対にしないと従業員にも伝えています。

信用を一度失うと、全てが終わってしまうからです。技術力への自信も、この正直さがあってこそだと思います。

今の時代、新しい技術や情報はどんどん出てきます。私たちもECサイトや自社ブランドという新しい分野に挑戦し、常に新しいやり方を取り入れることの重要性を感じています。これからの社会は人手不足などが課題と言われていますが、採用についても従業員の紹介など、地域に根差したやり方を大切にしています。

社会情勢に対して不平不満を言うだけでなく、将来のために自分たちで考え、行動していくことが大切だと感じています。私たちの会社でも、よりお客様に喜んでいただけるにはどうすればいいか、従業員がやりがいを持って働けるかなどを常に考えています。

皆さんも、自分が「面白い」と感じることや、社会に貢献できることにぜひチャレンジしてほしいと思います。

取材担当(石嵜)の感想

社長がご自身のキャリアチェンジや、家業に戻られてからの改革、新しい事業への挑戦について率直に語ってくださったことは、自身のキャリアを考える就活生として非常に参考になりました。

特に、「分からないことは知っている人に聞く」という姿勢や、「正直な仕事」を貫くことの重要性は、社会に出る上で心に留めておきたい大切なことだと感じます。これから社会に出る私たちZ世代として、ただ社会に不満を持つのではなく、自分たちで考え行動することの重要性を改めて感じることができました。

取材担当(石嵜)の感想