石川製麺株式会社は、富山県魚津市に本社を構える製麺メーカーです。戦後間もない1945年に創業し、「麺は楽しい」をコンセプトに、地域に根ざした商品づくりと、時代に合わせた革新を続けています。
創業以来守り続けてきた製麺技術と、地元の素材を活かしたオリジナル商品が特徴で、看板商品の「富山ブラックラーメン」や「白えびスープ
麺」など、富山の味を全国へ届けています。
また、専門店向けの特注麺にも力を入れており、味・太さ・コシなど細やかな要望に応える製麺対応が可能です。最新の設備と衛生基準を備えた工場では、品質管理体制にも徹底的にこだわり、「安全でおいしい麺づくり」を追求しています。
地域とともに歩みながら、誰かの食卓に小さな幸せを届ける——石川製麺は、そんな“麺の力”を信じ、次の一歩を踏み出し続けています。
今回は、「麺を通じて人を笑顔にしたい」という思いのもと、地域密着のものづくりと挑戦を重ねてこられた石川製麺株式会社の歩み、そして今後の展望について、代表取締役社長・石川様にじっくりとお話をお伺いしました。
<聞き手=石嵜渉(学生団体GOAT編集部)>
【石川様の今までの経緯・背景】

私は石川製麺の三代目社長です。会社は祖父が脱サラし製粉・製麺業を始めたことに由来します。 二代目である父は、祖父が若くして亡くなったため、23歳で事業を継承しました。父は地元魚津を自転車で回り、営業と配達をこなしながら事業を広げていったと聞いています。
私が会社を継ぐことは元々想定していませんでした。私は三兄弟の真ん中ですが、長兄が継ぐ予定でした。兄は東京の大学を卒業後、魚津に戻り継承準備を進めていましたが、交際相手の家族の事情で秋田に行くことになり、後継ぎがいなくなりました。
父から「継いでくれないか」と打診された時、私はすでに就職先が決まっていました。しかし、父が「もしお前が継がないなら、会社を畳む」と言ったため、「仕方ないな」という気持ちで引き受けました。 24歳頃に入社し、現在に至ります。当初は社長という立場の重みを理解していませんでしたが、それは会社に入ってから徐々に身についたものだと感じています。
取材担当者(石嵜)の感想
石川社長が予定外の形で事業を継がれたお話に大変驚きました。ご家族と会社の未来を想い、引き受けられたというエピソードは、自身のキャリアを考える私たち就活生にとって、人との縁や責任の大切さを教えてくれる貴重な学びです。

【石川製麺株式会社の事業・業界について】

私たちの主力事業は麺類の製造です。売上の約7割は北陸地区のスーパーマーケット様への販売、残りの約3割は富山県を中心とした麺類飲食店様や企業給食様への業務用商品提供です。オンラインショップも運営していますが、こちらはまだ強化段階です。
代表的な商品には、国内で認知度が高まる「富山ブラックラーメン」があり、この秋にはアップグレード版の発売を予定しています。また、珍しい「昆布うどん」も特徴的です。富山が昆布の消費量日本一であることから、その昆布を麺に練り込んだうどんは珍しく、召し上がった方からは高い評価をいただいています。栄養価も高い自慢の商品です。
現在、業界共通の人手不足は弊社も抱えており、工場の生産維持のため外国人研修生を受け入れています。また、新卒者や中途採用者も募集しています。新卒採用はこれまで積極的ではありませんでしたが、今後は私自身が大学を訪問するなど、長期的な視点での人材確保に努める方針です。採用コストが高い現状で、地元の高校やハローワークを通じた活動も継続しています。
経営において私が重視するのは、シンプルで当たり前の考え方です。社内には「クレド」という行動指針を設け、社員全員で目指すよう呼びかけています。クレドの冒頭には「感謝」と「明るい挨拶」を掲げています。どんな時も私自身が明るい表情で社内外に接することを心がけています。人は明るい場所に集まるからです。クレド浸透のため、月1回の研修会を実施し、具体的な20項目を示しています。管理職や一部社員には、360度評価を点数化し、クレド視点での自己成長度合いを測るバロメーターとして活用しています。優秀な社員には金一封を渡すこともありますが、定着は容易ではないと感じています。
取材担当(石嵜)の感想
石川製麺が地域に根差しつつ、独自の商品で勝負していることに魅力を感じます。人手不足への対応や「クレド」に基づく人材育成は、単なる利益追求だけでなく社員を大切にする経営者の姿勢を表しており、学生として共感します。

【石川製麺株式会社の今後の展望】

当社の大きな目標は、創業80周年を迎える今年から、100年企業を目指すことです。100年続く企業は少なく、これは私たちの会社にとって重要な目標です。
この目標達成のため、主力である地元スーパーマーケット様への販売に加え、より広く全国の方々に商品をご利用いただける販売経路の構築に力を入れたいと考えています。オンライン販売の強化はもちろんのこと、特に観光客向け市場に注力します。コロナ禍以降、富山県には多くの観光客が訪れるようになりました。これまで「富山ブラックラーメン」のような富山らしい商品がありながら、観光客向けのお土産としては積極的に展開してきませんでした。最近では私も含め営業担当が観光客の訪れる店舗を回り、取引提案を進めており、成果が広がり始めています。
将来的には、観光地で商品を購入されたお客様が「美味しかったからまた買いたい」と検索し、オンラインショップでの購入に繋がるような流れを構築したいです。 「富山ブラックラーメン」はすでに認知度がありますが、珍しくも高い評価を得ている「昆布うどん」など、他にも魅力的な商品があります。商品そのものの味と品質には自信があり、これらをいかに全国、そして世界のお客様に手に取っていただき、一度お試しいただく機会を作るか、その可能性を模索しています。
取材担当(石嵜)の感想
100年企業へのビジョンと、オンラインや観光市場への展開戦略に感銘を受けました。商品の美味しさを起点にした理想的な購買サイクルを追求する姿勢は、顧客満足度を第一に考える真摯な経営哲学を感じさせます。

【石川様から学生へのメッセージ】

今の若い世代が大人や日本に対して不信感を持っているのは、私たち大人の責任だと感じます。だからこそ、大人が本気で楽しみながら挑戦する姿を見せることが、日本を元気にする上で重要だと考えています。 私は地元の大学生と交流する中で、若い世代と年配世代の間に世代間ギャップがあると感じます。流行や文化の変化に伴い、若者の思考が年配者と違うのは当然です。しかし、その根底にある考え方は全く同じだと感じています。
最近は本音で話し合う機会が少なくなっており、表面的な情報伝達の時代だからこそ価値観のずれを感じやすいのかもしれません。しかし、年齢が違うだけで考え方の原点は同じだと私は思っています。つまり、人への感謝、明るく生きたいという願い、そして自分の人生を充実させたいという思いは、私たち年配者と全く同じなのです。
皆さんにアドバイスをするとすれば、それは「今のまま一生懸命に、ご自分たちの道を歩んでほしい」ということです。大学での勉強が社会で活かせるか、別の道に進むか、大学に行かないかなど、様々な選択肢があるでしょう。どんな道を歩むにしても、周りの人々を大切にし、ご自身も大切にしながら、明るく人生を前に進んでいってほしいと心から願っています。それが何よりも大切だと私は思います。
取材担当(石嵜)の感想
石川社長の学生へのメッセージは、世代間のギャップを乗り越える上で非常に示唆に富んでいました。表面的な違いにとらわれず、根底にある共通の価値観、すなわち「感謝の心」「明るく生きる姿勢」「人生を充実させたいという願い」を大切にすることの重要性を強調されており、大変印象的です。将来に不安を感じる就活生にとって、大きな勇気となるでしょう。
