株式会社マリンポリス様は、回転寿司を主軸とした外食チェーンを運営する企業です。1985年に設立され、本社を岡山に構え、直営24店舗、FC5店舗を全国に展開しています(令和6年3月末現在)。一般的な低価格帯の回転寿司とは一線を画し、「グルメ系回転寿司」という独自の路線を追求しています。豊洲から仕入れる鮮度抜群のネタ、そして目の前で職人が握るスタイルにこだわり、お客様に「本物の寿司体験」を提供することを目指しています。平均客単価は約2500円と、職人の技術と上質な寿司を手の届く価格で提供しているのが大きな特徴です。今回は、「グルメ系回転寿司」という独自のスタイルにかける想いや、その裏側にあるこだわり、そして今後の展望について、株式会社マリンポリス 代表取締役社長にじっくりとお話をお伺いしました。
<聞き手=丸山素輝(学生団体GOAT編集部)>
【池田様の今までの経緯・背景】

私のキャリアは、一般的な経営者とは異なるユニークな経緯を辿ってきました。大学を卒業後、まず国家公務員として経済産業省に約6年間勤務しました。その後、金融系の投資会社に転職しました。この投資会社時代に、当時投資先であった株式会社マリンポリスと出会い、経営改善のために同社に派遣されたことが、私とマリンポリスの深い関わりの始まりでした。
約2年間、投資会社の人間としてマリンポリスの経営改善を進める中で、この会社に強い思い入れを抱くようになりました。そして、マリンポリスが他の会社に売却される際に、私は自ら投資会社を辞め、社長としてマリンポリスに入社するという異例の決断を下しました。以来、12年以上にわたり、当社の経営の舵取りをしています。
社長就任後、私がまず着手したのは組織面の改革でした。それまでの組織は役割が不明確で人員が過剰な部分があったため、各セクションのミッションと責任を明確化し、適材適所の人員配置を進めました。これにより、社員一人ひとりの責任感が高まり、組織全体のパフォーマンス向上に繋がったと感じています。
取材担当(高橋)の感想
国家公務員から投資会社、そして投資先の社長様へと、池田様のキャリアパスは非常に珍しく、その行動力と会社への深い思い入れに驚かされました。組織改革における明確な役割分担と責任感の向上という視点は、どんな組織においても重要だと感じ、学生にとって学びの多い部分だと思います。

【株式会社マリンポリスの事業・業界について】

外食産業全体にとって、この5年間は非常に厳しい逆風が続いています。まず、3年間にわたるコロナ禍による外出規制は、お客様の外出によって成り立つ我々外食企業に甚大なダメージを与えました。その後の2年間は、現在進行中の物価高が追い打ちをかけています。
仕入れ価格の高騰は我々の経営を圧迫しますが、むやみに値上げすればお客様離れを招くため、価格転嫁には慎重にならざるを得ません。同時に、国民全体の消費の冷え込みも顕著であり、家計が苦しくなる中で外食頻度は減少傾向にあります。この5年間は、過去4、50年の歴史の中でもこれほど逆風が吹き続けたことはなかったと言えるほどです。
このような厳しい環境下でも、マリンポリスは様々な改革を進め、お客様に受け入れられる道を模索し続けてきました。全体の外食市場が縮小する中で、いかにして当社を選んでいただくか、という点に注力しました。具体的には、高品質な「ネタ」と「味」へのこだわりを日々追求し続けています。
当社は一般的な低価格帯の回転寿司とは一線を画し、「グルメ系回転寿司」という独自のカテゴリーに位置づけられます。平均客単価は約2500円と、決して安価ではありませんが、お客様の目の前で職人が卵焼きを焼き、魚を切り付け、握りたての寿司を提供する「ライブパフォーマンス」を重視しています。
これは、従来の高級寿司店では5000円を超えるような価格帯でしか味わえなかった職人の技術と本物の寿司体験を、回転寿司という形式で手の届く価格で提供するというものです。この差別化された価値提供により、コロナ禍以前と比較して利益を倍増させるという成果を上げています。
職人の確保も大きな課題です。寿司は魚を捌き、包丁を使いこなす技術が必要であり、外食産業の中でも難易度が高い仕事です。経験者の採用は非常に困難であるため、当社では未経験者を積極的に採用し、育成する方針をとっています。包丁の使い方から魚の切り付け、握り方、その他調理全般に至るまで、約1年間をかけて一人前の職人へと育成しています。これにより、店舗運営に必要な人員を安定的に確保することが可能になっています。
取材担当(高橋)の感想
コロナ禍と物価高という二重の逆風にもかかわらず、利益を倍増させたという話に大変驚きました。これは、他社にはない「グルメ系回転寿司」という独自の価値提供と、職人の育成体制を確立されていることの証だと感じました。
特に未経験者から一人前の職人を育てるという方針は、人材不足が叫ばれる現代において、持続可能な組織運営の鍵になると確信しました。

【池田様から学生へのメッセージ】

Z世代の若者が就職後に「こんなはずではなかった」と感じて離職に至るケースが多いと聞きます。その背景には、情報過多の時代でありながらも、仕事や会社に対するリサーチが不足している点が一因にあると私は考えます。
私の時代(25年前、当時23歳で経済産業省に入省)と比較しても、現代の企業はコンプライアンスが強化され、新入社員に対する風当たりはむしろ弱まっているはずです。それでも離職が多いのは、就職活動における準備の甘さが影響しているのではないでしょうか。
多くの学生は「自分は何になりたいのか」という問いにすぐに答えられないものです。それは自然なことかもしれませんが、だからこそ、世の中にある様々な仕事について、自らの意思で徹底的に調べ上げることが重要です。
IT、金融、製造、外食など、業種ごとにどのような仕事があるのかを深く理解する努力が求められます。自分の適性を見極め、本当に興味を持てる仕事内容に絞り込んで就職活動を進めれば、入社後のミスマッチは大幅に減らせると信じています。
企業名や知名度だけで会社を選ぶのではなく、その業種や仕事の中身を深く理解した上で選択することで、入社後に自分にマッチする確率を格段に上げられるでしょう。今の時代は、インターネットを通じていくらでも情報を得ることができます。
やりたいことが見つからないと悩む若者は多いですが、それは「やりたいことを見つける努力をしていない」のかもしれません。自ら積極的に情報収集を行い、納得のいくキャリア選択をしてほしいと強く願っています。
取材担当(高橋)の感想
Z世代の課題を的確に捉え、具体的なアドバイスをいただけたことは非常に有意義でした。「やりたいことが見つからないのは、やりたいことを見つける努力をしていないから」という言葉は、耳が痛いながらも真実を突いており、就職活動の前に徹底的な自己分析と仕事のリサーチを行うことの重要性を改めて認識しました。

【株式会社マリンポリスの未来へのビジョン】

会社の規模を拡大していくよりも、会社の質を極限にまで高めたいという明確な目標があります。ここでいう質とは、単に売上や利益、株価といった数字的な指標にとどまりません。
中に働く社員一人ひとりの質、すなわち仕事に対するスキル、成長のスピード、高いモチベーション、そして自社の寿司を通じて世の中を幸せにするという使命感を指します。これら全てを兼ね備えた人材は極めて稀ですが、そうしたプロフェッショナルを育てていきたいと考えています。
提供する寿司のクオリティもまた、質の追求の重要な要素です。一人1万円、2万円といった高価格帯の寿司であれば、良いネタを使えば簡単にクオリティを上げられます。しかし、当社の目標は、一般のお客様が手の届く約2500円という価格帯で、最高の質の寿司を提供することです。
これを実現するためには、仕入れにおける徹底した努力や、握る職人の高いパフォーマンスが必要不可欠です。お客様の口に運ばれる瞬間に最高の質を届けられるよう、日々追求し続けています。
私個人の価値観として、売上高や利益が高い企業、株価が高い企業、世間に広く知られている企業が、必ずしも「良い企業」であるとは考えていません。お客様商売である我々にとって、お客様が最高の評価を下してくれる企業こそが、最も良い会社であると信じています。
現状、当社はその理想にはまだ到達していませんが、今後の目標として、お客様満足度において日本一の評価を得られる会社を目指し、その道を追い求めていきたいと考えています。
取材担当者(高橋)の感想
多くの経営者が規模拡大や上場を目指す中で、池田様が「質」の追求に重きを置かれていることに感銘を受けました。社員の質、寿司の質、そして顧客満足度の向上を第一に考える姿勢は、数字だけではない本質的な企業価値を追求する経営哲学であり、就職活動を行う上で企業選びの重要な視点になると感じました。
