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90年の歴史を胸に、時代の変化に挑む地域密着企業の未来

2025年06月03日

キンパラ株式会社

90年の歴史を胸に、時代の変化に挑む地域密着企業の未来

静岡県磐田市に本社を構えるキンパラ株式会社は、創業から90年、制服を中心に事業を展開してきた地域密着の企業です。主に学校制服の製造・販売を手がけていますが、それだけにとどまらず、企業や官公庁(消防・警察など)向けの制服も幅広く取り扱っています。

事業内容は卸売業と小売業が中心ですが、自社工場を持ち、多様な顧客ニーズに対応できる体制を整えています。現在は静岡県内に9店舗の学生服専門店を展開し、地域に根ざした事業運営を行いながら、変化の激しい現代社会において多角的な視点と新しい技術を取り入れ、持続的な成長を目指しています。このような地域密着型のものづくりと、時代に合わせた柔軟な展開について、代表取締役社長 金原様にお話をお伺いしました。

<聞き手=石嵜渉(学生団体GOAT編集部)>


【金原様の今までの経緯や背景】

キンパラは、祖父が創業し、父が2代目を継ぎ、私が3代目として事業を引き継いだ会社です。幼い頃から「いつか家業を継ぐのだろう」と、自然と意識していました。学生時代には他の選択肢も考えましたが、特に深く考えることもなく、会社について詳しく調べないまま入社を決めたのが正直なところです。

しかし、実際に入社してみると、自分が思い描いていた会社像と現実の姿には大きなギャップがありました。事業が学校制服だけではないこと、売上の約半分が企業や官公庁向けの制服であること、自社工場を持ちながらも仕入れ比率が高いことなど、多くを入社後に学ぶことになりました。入社前にきちんと会社を理解していなかったことは反省点の一つです。

事業承継で最も苦労したのは、父との考え方の違いです。特に数字面での課題に対し、私は改善を求めましたが、父はこれまでのやり方に固執する傾向があり、意見がぶつかることも多くありました。

私が入社した当時は業績もあまり良くなく、父の時代の経営管理、特にコスト意識が甘かったことが大きな原因だったと感じています。いわゆる“どんぶり勘定”からの脱却が必要でした。

取材担当者(丸山)の感想

幼少期から自然と事業承継を意識されていたというお話に、家業を継ぐことの重みを感じました。深く考えずに入社したという意外な経緯から始まり、入社後に直面した事業内容への認識のギャップや、父親との考え方の違いによる苦労は世代間の価値観の違いや事業承継のリアルな難しさを教えていただきました。

業績不振からの立て直しという経験も、経営者としての強さを物語っていると感じました。

取材担当者(丸山)の感想

【キンパラ株式会社の事業・業界について】

キンパラ株式会社の事業の中核は学校制服の販売で、売上の約半分を占めています。加えて、企業や官公庁向けの制服も手がけており、幅広い分野をカバーしています。これらの制服は、自社工場での製造と仕入れの両方によって対応していますが、現在は仕入れが中心です。

現在は静岡県内に9店舗の学校制服専門店を展開し、制服だけでなく、通学カバンや雨衣、傘、防災ずきんなど、学校生活全般を支えるアイテムも取り扱っています。製造機能を持ちつつ、卸売・小売の両面から展開することで、多様なニーズに応えられる体制を整えています。

少子化により学生人口が減少する中、事業領域を広げることで対応を図っています。ランドセルの販売は昨年から新たに開始し、また、これまで一部で扱っていた体操服についても、今後は積極的に取り扱いを拡大していく方針です。これは「ライフタイムバリュー」の考えに基づき、一人の顧客との関係を長期的に築くことで、一人当たりの顧客価値を高める狙いがあります。

また、オンワード樫山が展開するスーツ事業「KASHIYAMA」のパートナーとして、オーダースーツ事業も展開しています。学生服販売の繁忙期(春)と閑散期のバランスを取る役割も担っています。

さらに約2年前からは、リユース・中古販売事業にも取り組んでいます。制服は高価であり、一括購入が難しい家庭や、成長による買い替えに対応するためです。お下がり文化が薄れてきた現代社会において、こうした新しい仕組みが求められていると感じています。
業界全体の課題としては、少子化による市場縮小に加え、人件費や原材料費の高騰があります。最低賃金が年5%近く上昇している中で、価格競争や値上げの難しさも大きな課題です。

こうした厳しい状況の中でも、創業90年という歴史に裏打ちされた地域での高い知名度と信頼、店舗・工場・営業人員が社内に揃っている体制による利便性(短納期・小ロット対応など)は、キンパラの強みだと考えています。

取材担当者(丸山)の感想

学校制服だけでなく、企業や官公庁の制服、さらにはランドセルやオーダースーツまで幅広い事業を展開されていることに驚きました。特に、少子化という業界の厳しい現実に、事業領域を広げることやリース事業を導入することで対応されている柔軟な姿勢に感銘を受けました。

お客様との長いお付き合いを大切にする「ライフタイムバリュー」という考え方も、今後の顧客との関係構築において非常に参考になる視点だと感じました。業界の課題と自社の強みを明確に認識されている点が印象的でした。制服のリサイクル活動にも取り組まれているのは素晴らしいと思いました。

取材担当者(丸山)の感想

【金原様から学生へのメッセージ】

学生時代に経験しておいて良かったと感じるのは、「友人とのつながり」です。
学生時代にできた友人は、社会人になってから出会う人とはまた違う存在で、今でも定期的に会うなど、その関係が続いています。そうした関係性は、自分の視野を広げるうえでもとても大切なものだと思っています。

大学での学びももちろん重要ですが、それ以上に、さまざまな人と関わり、友人関係を築いていくことの価値を強く感じます。同じ時代・環境で過ごす仲間とは、将来何かを一緒にやることがあったときに、自然と力を合わせられる関係になることもあります。

社会に出ると、学生時代のように自然に友人を作る機会は減ってしまいます。だからこそ、学生のうちに積極的に人と関わり、つながりを広げておくことが、将来の財産になると思います。

私自身、大学時代を振り返っても、勉強ばかりしていたわけではありません。
でも、多様な人と出会い、友人とのつながりを築けたことは、本当に大学に行って良かったと思える大きな理由のひとつです。

取材担当者(丸山)の感想

長が学生時代の友人関係の重要性を強調されているお話は、私たち学生にとって非常に身近で、心に響くメッセージでした。確かに、社会に出ると学生時代のような環境で友人を作るのは難しいかもしれません。

今の友人との繋がりを改めて大切にしようと思いました。また、勉強だけでなく人との関わりも大切だという視点は、大学生活を送る上で意識すべき点だと感じました。

取材担当者(丸山)の感想

【今後の展望】

キンパラ株式会社は、静岡県西部地域において“社会にとって必要な存在”であり続けることを目指しています
少子化によって市場規模が縮小していく中で、単に売上や事業規模を追うのではなく、事業領域を広げることで、地域の中での役割と存在価値を高めていきたいと考えています。
経営で最も重視しているのは、「時代の変化に対応すること」です。

この5年間だけでも、制服業界を取り巻く環境は大きく変化しました。セーラー服からブレザーへの移行、ジェンダーレス制服の登場、保護者の価値観や購買行動の変化、そしてSDGsへの意識の高まりなど、目まぐるしい変化が起きています。

こうした変化に対して、過去のやり方や固定観念にとらわれず、柔軟に対応していくことこそが、会社が生き残るための鍵だと捉えています。
今後の取り組みとしては、まずEC(ネット販売)を活用した販路の拡大に注力していきます。現在は実店舗周辺地域を中心とした展開ですが、ECを組み合わせることで、より広い地域の顧客にリーチし、多様なニーズに応えていきたいと考えています。

さらに、社内ではAIの活用にも力を入れています。私自身が率先して日々業務でAIを使いながら、「中小企業にありがちな“右腕となる人材がいない”問題は、AIによって補える」と確信するようになりました。

経営判断や資料作成、情報収集、企画のたたき台づくりなど、従来は時間と経験が必要だった業務も、AIの助けがあればスピードも精度も大きく向上します。
今後は、他の社員もAIを活用できるような形にして、業務の効率化につなげていきたいと考えています。

時代の変化に適応しながら、新しい技術や考え方を積極的に取り入れ、地域とともに成長していくそれが、これからのキンパラが描く未来です。

取材担当者(丸山)の感想

少子化という厳しい状況下でも「必要とされる存在」を目指し、拡大路線で進んでいきたいという力強い目標に感銘を受けました。変化の速い時代に柔軟に対応することの重要性や、ECやAIといった新しい技術を積極的に活用されている姿勢は、まさにこれからの時代に必要な経営だと感じました。

特に、AIを「右腕」として活用し、ご自身の業務領域を広げられているというお話は、中小企業における人材活用の新しい可能性を示唆しており、大変勉強になりました。