社会福祉法人幸輪福祉会は、高齢者や障害者の方々の「食・住」をサポートする企業です。約350名の方々の生活を約350名のスタッフで支えています。他に、グループ法人として、社会福祉法人幸輪会・学校法人幸輪学園・株式会社筑後自動車学校などがあり、生まれてからお亡くなりになるまで、人生の様々な場面に必要な福祉サービスを幅広く提供しています。地域にド密着した活動を通じて、質の高い福祉サービスの提供を目指しています。今回は、理事長の牛島護厳様に、これまでの歩みや事業への思い、そして学生へのメッセージについて伺いました。
<聞き手=丸山素輝(学生団体GOAT編集部)>
【牛島様の今までの経緯・背景】

私は大学卒業後、東京でサラリーマンをしていました。しかし、平成15年に父が病気になったことがきっかけで、実家のある筑後へ戻ることになりました。最初に任されたのは、グループの一員である筑後自動車学校の社長という役職でした。
当時はまだ社会人経験が10年未満でしたが、いきなり前年度の成績を超えることを求められる厳しい条件でした。幸いにも、1年間で目標を達成し、仕事を続けることができました。
サラリーマンから経営者という立場に変わり、考え方や必要な知識が全く異なる中で、多くの苦労がありました。今でも、各法人の専門知識という点では、私は他の幹部には劣っています。専門性は皆を頼りにしています。私にとって人は財産であり、皆に頼らなければ私の経営はできません。
理事長や社長という立場は人間的に優れているのではなく、一番重い責任を負っているだけだと考えています。だからこそ、私は経営者としてこの「人」を大事と考えています。父が成し遂げたかったことを私が引き継ぎ、今度は私が次の若い人たちに託していきたいと考えています。
取材担当者(丸山)の感想
大学を卒業してサラリーマンを経験された後、突然グループ全体を任されるという、想像もできないような大変な経緯があったことを知りました。特に、お父様を突然亡くされて、何も引き継ぎがない中で経営を任されたというのは、計り知れないご苦労があったと思います。その中で、人を大切にする経営哲学を培われてきたことに感動しました。
社長という立場でありながら、誠実でいながらも、お話しているとすごく柔らかい雰囲気で、安心してお話しできました。例えるのは失礼かもしれませんが、漫画『ワンピース』のルフィのように、仲間を大切にするリーダー像に憧れる学生は多いのではないかと感じました。重い責任を一人で引き受ける覚悟や、お父様から受け継いだ天命のお話から、経営者としての熱い思いがひしひしと伝わってきました。

【社会福祉連携推進法人幸輪ホールディングス事業・業界について】

私たちのグループは、複数の法人で構成されています。それぞれの法人に特色があるので、これは私たちの強みのひとつと捉えています。一つの法人がうまくいかなくなった場合でも、法人を分けていることで他の法人が助けることができます。この形態はリスク分散の面ではとても効果的です。
グループのメイン法人は幸輪福祉会です。高齢者が増加していることに加え、障害者の方々の入所施設も運営しており、事業規模としては最も大きくなっています。
私たちは、特別養護老人ホーム・地域密着型特別養護老人ホーム・有料老人ホーム、介護付き有料老人ホームなど、様々な種類の施設を運営し、利用者のニーズに合わせたサービスを提供しています。特別養護老人ホームは広域から入所可能な施設で、最も規模が大きいものです。地域密着型特別養護老人ホームは、私たちが所在する筑後市の方々しか入所できない地域密着型の施設です。
有料老人ホームは基本的に誰でも入所でき、一般的なマンションに介護サービスが付いているようなイメージです。介護付き有料老人ホームは、介護サービスがセットになった施設で、有料老人ホームのように自分で介護サービスを選択するのではなく、サービス内容が決まっています。このように、利用者の状況や希望に合わせた多様な施設を提供することで、地域の方々の生活を支えています。
私は、「日本の介護サービスこそ世界の最先端産業だ」と考えています。日本は世界で最も早く超高齢社会を迎えますが、まだ介護サービスのスタンダードは確立されていません。だからこそ、日本でサービスのスタンダードを創造することは、世界のスタンダードを創造することと同じだと考えています。私たちはこれまでのサービスを提供するだけでなく、これから必要とされるサービスを創造し提供することを目指しています。今までの常識も大事にしながら、それらを破壊して再構築することも重要です。例えば、「人が全て看なければいけない」という概念にとらわれず、AIやIoTを駆使しつつ、人でなければいけない仕事に重きを置けるよう新しいシステムをどんどん導入しています。
介護業界は人材不足が課題と言われています。私たちは地方に所在しているため、介護職員を探すのが大変です。そこを補うのがテクノロジーです。近い未来の話として、職員が困ったときにすぐにサポートを受けられるようなシステムがあればいいなと思っています。介護施設は広く、他の職員に聞きに行くのに時間がかかる場合もあります。
AI施設長のようなシステムがそれを克服します。部屋にマイクやカメラがあり、AIが状況を見て適切な手順を教えてくれるのです。システム名は「マザー」にしようと妄想しています(笑)このようなシステムがあれば、新人教育にかかる期間を短縮できる可能性があります。今は一人前になるのに半年かかりますが、3ヶ月、あるいは1ヶ月でできるようになるかもしれません。
新人教育の話をしましょう。基本的には3ヶ月での育成を目標にしていますが、定着を重視し、ゆっくり社会に慣れていくことを目指しています。覚えるスピードは人それぞれなので、その人に合わせて育成期間を設定しています。
今年度は、福祉会として日本人2名、外国人12名の合計14名の新卒を採用しました。元々地方で介護職員を探すのが大変だったため、「世界中に80億人いるじゃないか」という考えに至り、世界中から人材を集める取り組みを始めました。
私たちの法人の強みは3つあると考えています。一つ目は、社会福祉法人であることです。株式会社の場合、利益には税金が課されます。社会福祉法人は税制面で優遇されています。これにより、そのお金を人材教育や施設投資に回すことができます。
二つ目は、地域密着で事業を展開していることです。生まれてからお亡くなりになるまでのサービスを提供しており、地域においては私たちのグループを知らない方はいないほど認知されています。
三つ目は、何かあった時にグループ全体で対応できることです。例えば、一つの法人が困難な状況にあっても、他の法人が助けることができます。また、グループ全体で約650名の職員がいるため、例えば外国人職員が冬服を持っていない時に、職員間で不要になった服を集めるなど、グループ内で助け合うこともあります。
取材担当者(丸山)の感想
企業の基本情報だけでなく、事業内容や法人を分ける理由、施設ごとのサービスの違いなど、詳しくお話しいただいて理解が深まりました。特に、日本の介護サービスを世界のスタンダードにしたいという熱い思いや、AIやIoTを積極的に活用してサービスを創造していく姿勢に感銘を受けました。人材不足という業界全体の課題に対し、AIシステム「マザー」のような具体的な構想をお持ちなのは素晴らしいと感じました。
また、手厚い教育体制や、外国人採用を積極的に行っている点も、人手不足対策として魅力的だと感じました。企業の強みとして挙げられた、税制優遇、地域密着、グループ連携も、安定した経営と質の高いサービス提供に繋がる重要な要素だと感じました。社会の役に立ちたい、様々なアイディアを考え挑戦したい学生には理念や文化がマッチする会社だと思います。

【牛島様から学生へのメッセージ】

私は、いわゆる学生の方々はもっと自立していいのだと思います。日本は、これからさき多くの外国人労働者を受け入れていきます。海外では幼い頃から一個人として扱われ、本人もそれを自覚しています。結果、自分の主張を相手に伝え、相手の主張も受け入れるという土壌が作られていきます。一方、日本の場合はなかなかそうではない現状があります。そこで、私が思うのは、自立した個人として様々な大人たちと会ってほしいと思います。
自分の考えをぶつけ相手の考えをぶつけられ、自分を磨いてほしいと思います。私は、結局、人は人でしか磨かれないと思います。ダイヤモンドも最初はただの石ころみたいなものですが、ダイヤモンドで削ることで輝きを放ちます。磨かれていかないと輝くことはできません。私自身もそうでしたが、学生時代はどうしても気の合う仲間や居心地の良い場所に集まりがちです。しかし、それだけでは磨かれません。やはり、考えが合わない人や異なる世代の人たちと会って、様々な経験をすべきだと考えます。
取材担当者(丸山)の感想
「人は人に磨かれる」という言葉が非常に心に響きました。私たちの世代はデジタル世代と言われ、携帯一つで多くの情報が得られますが、それを行動しない言い訳にしてしまう部分もあると感じます。
デジタル情報だけでなく、実際の行動や人との対面交流を大切にすべきだというお話は、まさに現代の学生にとって重要な学びだと感じました。特に介護という仕事は、人生の先輩である高齢者の方々と常に接することができるため、人として磨かれる素晴らしい機会があると感じました。

【社会福祉連携推進法人幸輪ホールディングスの今後の展望】

今後の事業ビジョンとして、日本の介護サービスを世界のスタンダードとして創りたいと考えています。これは私の代だけで成し遂げられることではないかもしれませんが、次の世代まで引き継いで実現してほしいと思っています。
分かりやすく言うと、私たちは筑後市という行政区にいらっしゃる方々に、行政に代わって公共性の高いサービスを提供しています。目指すところは、「株式会社筑後市役所」のような存在です。地域に密着し、そこで必要とされる公共サービスを全てグループで担うのです。このモデルは、近隣の自治体にも展開できると考えています。そして、そのモデルをどんどん広げていき、将来的には世界に向けて展開していきたいという夢を持っています。
また、採用に関連する展望として、私たちは学生の皆さんに4つのキャリアパスを設定しています。一つ目は「経営者コース」です。これは大卒で、早い方は40歳くらいで施設の施設長を目指すコースです。一番大きな施設は利用者数も多く、施設長は会社の社長のような立場です。収入も支出も人材も、物、金、情報全てにおいて最高実務責任者です。22歳で卒業して頑張れば40歳で社長になれるチャンスがあります。
二つ目は、経理、財務、採用、労務などのバックヤード業務を担う「ホワイトカラーコース」です。これは介護業界ではあまりイメージされないコースかもしれません。三つ目は、現場での介護を極める「スペシャリストコース」です。現場のトップを目指すコースで、介護や厨房など、現場で働き続けたい方が対象です。
最近、もう一つコースができました。それは「海外事業コース」です。私たちの事業は人が欠かせないため、人材確保のために海外を飛び回る役割です。インドネシア、ミャンマー、ネパール、パキスタン、スリランカなど、様々な国で人材確保を進めていきます。私たちだけでなく、地域の介護施設なども人手不足に悩んでいるため、他の施設にも外国人材を紹介できるようにしたいと考えています。
介護事業を展開する会社で、経営者、バックヤード、現場、そして海外事業とこれほど多様なキャリアパスがあるのは珍しいかもしれません。
昨年からはインターンシップも開始しました。今年は遠方から学生が来てくれて、採用プロセスにも進んでいます。このような取り組みを通じて、多様な学生に介護業界の魅力を伝えていきたいと考えています。
取材担当者(丸山)の感想
日本から世界のスタンダードを作るという壮大な夢や、「株式会社筑後市役所」のような地域をまるごと支える構想は、非常に面白く魅力的だと感じました。特に、若くして施設のトップである「社長」を目指せる経営者コースや、海外で活躍できる海外事業コースなど、学生が抱く介護業界のイメージを覆すような多様なキャリアパスが用意されていることに驚きました。
これは、介護業界のイメージを変えたいという牛島様の強い思いの表れだと感じます。インターンシップにも力を入れ、多様な学生との接点を持とうとされている点も素晴らしいと感じました。このような取り組みを通じて、多くの学生が介護業界、そして幸輪福祉会の魅力に気づく機会が得られるのではないかと思います。
