日本シニアライフ株式会社は、従来のデイサービスのイメージを覆す、カジノをモチーフとしたユニークな高齢者向けデイサービス「デイサービス ラスベガス」を運営しています。利用者が楽しみながら心身を活性化できる革新的なサービスは、多くのメディアにも取り上げられ注目を集めています。今回は、同社の代表取締役社長である森様ご自身に、事業の立ち上げの背景から、今後の展望、そして若い世代へのメッセージを伺いました。
<聞き手=石嵜渉(学生団体GOAT編集部)>
【森様の今までの経緯・背景】

私がこの会社に入社したのは25歳の時でした。当時、会社が業界大手の会社に買収されたのですが、数年後に介護事業から撤退することになったのです。そのタイミングで、私がその会社からMBO(マネジメント・バイアウト)という形で全株式を買い取り、30歳で独立し、今日に至っています。
元々は、皆さんと同様に就職活動をしてこの会社に入りました。まさか自分が社長になるとは思ってもいませんでしたが、状況が大きく変わる中で、独立という道を選ぶことになりました。
当時、介護業界は2000年に介護保険制度が始まったばかりの新しい産業で、新規参入がしやすい状況でした。新しい業界にはチャンスが多いと感じ、独立願望を持ちながらサラリーマンとして働いていた私にとって、社長就任の話はまさに独立のチャンスだと思いました。練習のつもりで引き受けたのですが、様々なことが重なり、結果的に会社を丸ごと買い取ることになったのです。
取材担当者(石嵜)の感想
森社長が20代という若さで会社の経営を担うことになった経緯は、時代の変化とチャンスを捉える行動力が生んだものだと感じました。
予期せぬ状況を乗り越え、独立という道を選ばれた背景には、新しいことへの挑戦心と、介護業界の可能性を見抜く先見の明があったのだと思います。

【日本シニアライフ株式会社事業・業界について】

当初からカジノ型のデイサービスを考えていたわけではありません。デイサービスで働いていた経験から、従来のデイサービスのイメージがあまり明るくなく、特に男性の方が通いづらいという課題を感じていました。
そんな中、アメリカへ視察に行く機会があり、現地の高齢者の暮らしや、カジノで楽しんでいる高齢者の多さに衝撃を受けました。「これなら高齢者の方々も楽しめるのではないか」と考え、デイサービスとカジノの要素を融合させることを思いついたのです。
現在、「デイサービス ラスベガス」は都市部を中心に21拠点を展開しています。介護業界は、病気が原因で介護が必要になる方が多く、特に男性は自信を失いがちです。しかし、当社のデイサービスに通うことで笑顔を取り戻し、コミュニケーションが生まれるなど、ご家族からも喜ばれる事例が多くあります。麻雀などを真剣に楽しむことで、言葉を発することが難しい方でもコミュニケーションが取れるという効果も実感しています。
取材担当(石嵜)の感想
介護業界の従来のイメージを覆し、エンターテイメントの要素を取り入れた「デイサービス ラスベガス」は、高齢者の方々が生きがいや楽しみを見出すための革新的な取り組みだと感じました。
利用者のニーズに応え、積極的に新しい価値を提供しようとする森社長の姿勢が、事業の成功に繋がっているのだと思いました。

【森様が苦労したこと】

苦労したことは、介護業界で長く働いている方々の固定概念を覆すことでした。「介護はこうあるべきだ」という強い思い込みがある中で、私がラスベガスのような施設を作ろうとした時、理解を得るのに非常に苦労しました。
「それはいいね」と言ってくれる仲間もいましたが、いざ具体的な話になると、介護の固定概念が壁となり、なかなか前に進みませんでした。私自身は幼少期から固定概念に囚われるのが嫌いだったので、法令に触れない限り、どんどん新しいことに挑戦しようとしました。
例えば、送迎車に黒のミニバンやアルファードのような高級車を使おうとしただけでも反対されました。「デイサービスに通っていることを周りに知られたくない」という利用者の声に応えたかったのですが、従来の白い送迎車というイメージを変えることは容易ではありませんでした。一つ一つ丁寧に説明し、理解を求めることで、少しずつ固定概念を切り崩していきました。
取材担当(石嵜)の感想
新しいことに挑戦する際には、常に抵抗や困難が伴うものだと改めて感じました。介護業界における長年の固定概念を打ち破り、利用者のニーズに応じた新しいサービスを創造していくためには、森社長の強い信念と、それを周囲に根気強く伝えていく力が不可欠だったのだと思いました。

【森様が経営者として大切にしていること】

経営者として常に大切にしていることは、「困っていることがビジネスになる」という視点です。誰かが何を困っているのか、常にアンテナを張り、それを解決するために我々の資産で何ができるのかを考えるようにしています。得意な分野はやはり介護ですから、介護の分野で何かお役に立てないかを常に考えています。
高齢者の方が送迎車でデイサービスに行くのを恥ずかしいと感じたり、周りに知られたくないという悩みがあることを知り、黒塗りの目立たない車での送迎を始めました。
また、病気によって自信を失ってしまった男性が、デイサービス ラスベガスに通うことで笑顔を取り戻し、家族とのコミュニケーションが改善される様子を見るのは、本当にやっていて良かったと感じる瞬間です。
困っている人を助けたい、役に立ちたいという思いが、新しいサービスや取り組みを生み出す原動力となっています。
取材担当(石嵜)の感想
利用者の潜在的なニーズを的確に捉え、それを解決するためのサービスを提供することこそが、事業の成功に繋がるということを学びました。森社長の、常に利用者の視点に立ち、寄り添う姿勢が、多くの支持を得ている理由なのだと感じました。

【日本シニアライフ株式会社の従業員について】

新卒採用にはあまり力を入れてこなかったのですが、最近は若い方から「ここで働きたい」とわざわざ来てくれるようになりました。私の子供と同年代、あるいはそれより下の子たちが来てくれるので、大切に育てていきたいと思っています。
ただ、若い子はパチンコなどを経験したことがない子もいるので、研修で体験してもらうこともあります。もちろん、親御さんからは心配されることもありますが、最初にラスベガスを始めた頃は、午前中は麻雀、午後はブラックジャックと、毎日研修で遊んでいたくらいです。当時22、23歳だった女性社員の親御さんからは、「本当に大丈夫な会社なのか」と心配されたそうですが、その社員は今でも働いてくれています。
お金だけでなく、日々の楽しさや職場の雰囲気、一緒に働く人たちの人柄を重視する若い世代が増えていると感じています。楽しい雰囲気の中で働くことは、長く続ける上で非常に重要だと思います。
取材担当(石嵜)の感想
若い世代が職場の雰囲気や人間関係を重視する傾向にある中で、楽しさを追求する「デイサービス ラスベガス」は、魅力的な職場の一つだと感じました。
研修内容からも、従業員が楽しみながら仕事に取り組むことを重視している姿勢が伺え、それが定着率の高さにも繋がっているのかもしれません。

【森様から学生へのメッセージ】

もしできるのであれば、アメリカに行った方がいいですね。アメリカのものは10年後に日本で流行ると昔から言われているからです。私もアメリカに行って、小売店のユーザーに選ばれるための努力が日本よりもすごいと感じました。
試食一つにしても、日本ではお店側が食べさせたいものを試食させますが、アメリカではユーザーが食べたいものをその場で試食できるなど、顧客志向が全く違います。返品に対する考え方も日本とは大きく異なります。ユーザーの気持ちを掴むこと、どれだけ掴むのかという点に重きを置いていると感じました。
もう一つは、筋トレをすることです。年上の人の中には意地悪な人もいますが、ジェネレーションギャップから年下の部下を傷つけてしまうこともあると思います。そんな時、精神力は筋力に比例します。
大学生時代に筋トレや格闘技などに挑戦しておくことをお勧めします。目標を持ってベンチプレス100kgなどを目指すと良いでしょう。私はやっていなかったので、今になってやっておけば良かったと思っています。
海外を見て、多様な価値観に触れ、自分自身を鍛えることは、これからの社会で活躍するために非常に重要な経験となるはずです。
取材担当者(石嵜)の感想
アメリカでの経験から得た顧客視点の重要性と、困難を乗り越えるための精神力を鍛えることの重要性という、二つの貴重なメッセージをいただきました。グローバルな視野を持ち、心身ともに成長することの重要性を改めて認識しました。

【日本シニアライフ株式会社の今後の展望】

私は生涯現役でいたいと思っています。80歳になっても、老害と言われながらも働き続けたいですね。もちろん、ただ年を重ねるだけでなく、その年齢なりの役立ち方をしていきたいと考えています。
そうありたい理由は、自分のためでもありますが、子供たちが社会人になった時に、私が第一線で働いていることで、何か困った時に助けられると良いなという思いがあるからです。
会社としては、少しずつ大きくしていきたいと思っています。楽しいことを増やしたいというのは、決してどんちゃん騒ぎをしたいということではなく、もっと多くの人と触れ合ったり、新しい地域に進出して、その地域の方々のお役に立てたりするようなことをしていきたいのです。
ただし、上場企業のような綿密な計画を立てると、社員が疲弊してしまう可能性があるため、社員と話し合いながら、無理のないペースで成長していきたいと考えています。かつて一部上場企業の厳しい環境に身を置いていた経験から、経営者の思いが末端まで伝わらず、疲弊してしまう社員をたくさん見てきました。
そうした経験を踏まえ、社員とのコミュニケーションを大切にしながら、少しずつ着実に事業を拡大していくことが目標です。私がフラフラしていても任せられるくらいの会社になってもらわないと、生涯現役は実現できませんから。
取材担当(石嵜)の感想
森社長の生涯現役という強い意志と、社員を大切にしながら持続的な成長を目指すという経営理念に感銘を受けました。目先の利益だけでなく、社会への貢献や社員の幸福を重視する姿勢が、企業の長期的な発展に繋がるのだと感じました。
