香川県東かがわ市に拠点を置くルボア株式会社は、日本の手袋生産シェア約9割を誇る地域の伝統技術を背景に、財布やコインケースなどの革小物・雑貨を製造・販売する企業です。手袋製造で培った高度な縫製技術を転用した「小銭入れ」が大ヒットしたことをきっかけに、現在は高品質な革製品ブランドとして確立されています。100%日本製にこだわり、熟練の職人が一点一点心を込めて作る製品は、国内のみならず海外からも高く評価されています。

父が切り拓いた手袋と財布の意外なルーツ
私の父である創業者は、鳥取県の農家の長男として生まれました。しかし父は「農業も好きだが、本当に自分のやりたいことは別にあるんじゃないか」と考え、家を飛び出した末に、香川県東かがわ市に辿り着きました。この地は日本で生産される手袋の9割を占める産地であり、父はそこで独立して手袋メーカーを創業しました。今年で創業65周年迎えることになります。
大きな転機となったのは、1964年の東京オリンピックの頃でした。当時は100円札が硬貨へと切り替わった時期で、小銭入れの需要が急速に高まっていました。そこで父は、手袋の最も難しい部分である「親指」を縫い合わせる技術を応用し、ラグビーボール型の小銭入れを開発しました。これが当時、お土産などとして爆発的に売れ、現在の財布・小物メーカーとしての礎を築くことになったのです。
私自身は長男として、幼い頃から家の中で仕事を手伝いながら育ちました。大学卒業後、ごく自然な流れで家業を継ぎましたが、現在は22年にわたり経営を続けています。時代の変化に対応しながらも、守るべき技術の根底には常に、父の代から受け継がれた「現状に満足せず、新しい価値を創造する」という不屈の精神があると考えています。
取材担当者(石嵜渉)の感想
「自分の居場所はここではない」という創業者の強烈な意志が、全く異なる香川の地で新しい産業の芽を育てたというエピソードに深く感銘を受けました。特に、手袋の立体的な縫製技術を小銭入れに転用し、通貨制度の変更という社会の大きな転換点を見事に捉えた洞察力は、ビジネスの本質を突いています。就活生の皆さんも、今持っているスキルを別の場所でどう活かせるかという「柔軟な視点の転換」の大切さを、この歴史から学べるのではないでしょうか。


「約束を守る、嘘をつかない」——経営を支える至極真っ当な誠実さ
私が経営者として何よりも大切にしてきたのは「約束を守る」ことと「嘘をつかない」ことの2点に集約されます。これらは人間としての極めて基本的な素養ですが、ビジネスの現場でこれを貫き通すことは容易ではなく、信頼関係を築くための最も重要な土台となります。仕入れ先の協力や、共に働く社員の信頼がなければ、高品質なものづくりを維持し続けることは到底できません。
会社を経営する目的は利益を上げて社会に貢献することですが、その第一歩は一緒に働く従業員に感謝し、彼らがやりがいを持って働ける環境を整えることです。私たちは現在、経営陣を含めて約40名の少数精鋭で運営していますが、すべての製品を日本国内で製造することにこだわっています。人がいなければ成立しない事業だからこそ、一人ひとりの存在を尊重し、誠実に向き合うことが、結果として良い製品を生むことに繋がると確信しています。
取材担当者(石嵜渉)の感想
林社長が語る「嘘をつかない」という言葉には、長年の激動を乗り越えてきた経営者ならではの重みがありました。情報が瞬時に拡散される現代社会だからこそ、こうした根本的な誠実さが企業の真のブランドを形作るのだと再認識しました。就活において福利厚生や給与条件に目が向きがちですが、「誰と、どのような誠実さを持って働くか」という視点は、長期的なキャリアを築く上で最も重要な指標になるはずです。


24時間は全人類に平等である——自己を律し成長し続けるための「時間の哲学」
若者の皆さんへお伝えしたいのは、時間の概念についてです。私は「24時間はすべての人に完全に平等に与えられている」と考えています。その限られた時間の中で、どれだけ目の前のことに一生懸命になれるか、それが人生の充実度を左右します。私は毎朝、今日が人生最後の日だと思って目覚め、明日また新しい人生が始まるという気持ちで一日を過ごすように努めています。
他人と自分を比較しても、きりがありません。SNSなどの影響で周囲の華やかな生活が羨ましく見えることもあるでしょうが、自分がコントロールできる範囲内のことに全力を注ぐべきです。自分ではどうにもできない国際情勢などに過度に一喜一憂するのではなく、今自分ができる仕事や学びに没頭することが、結果として確実な成長に繋がります。
また、成長のための投資として、本をたくさん読むことを強くお勧めします。1冊の本には著者の人生や哲学が凝縮されており、5冊も真剣に読めば、その分野における基礎的な素養は十分に身につきます。お金をかけずとも、先人の知恵を吸収し、自らの頭で考える力を養うことができる。これが、若い皆さんが持つことができる最大の武器になると信じています。
取材担当者(石嵜渉)の感想
「24時間は平等」という言葉は、つい時間を浪費してしまいがちな私たちへの強力なメッセージです。特に、コントロールできない外部の事象に心を乱されず、自分の「できること」に集中するという哲学は、変化の激しい現代を生き抜くための最強のメンタル術だと感じました。読書を通じて短期間でプロの素養に近づくという具体的なアドバイスも、今日からすぐに実践できる、価値ある教えです。


メイド・イン・ジャパンの誇りを世界へ——感性を繋ぎ、変化に挑む未来図
ルボアの今後のビジョンは、日本の職人技術を世界中の市場に届け続けることです。私たちは25年以上前から海外市場に挑戦しており、ニューヨークやパリの展示会にも継続して出展してきました。海外で信頼を勝ち取るためには、一度きりの挑戦ではなく、同じ場所で継続的に続け、「あそこに行けばあの職人たちがいる」という安心感を与えなければならないということを学びました。
現在は世界的にキャッシュレス化が加速しており、財布という概念そのものが大きな変化を求められています。しかし、たとえ製品の形状が変わっても、厳選された革素材を扱い、使い手に喜びを与える技術の価値は変わりません。国内の人口が減少する中で、海外市場への挑戦は避けては通れない道であり、これからもメイド・イン・ジャパンの誇りを世界へ発信し続けていきます。
新しい製品の感性やトレンドについては、若い世代のスタッフに積極的に任せるようにしています。私の長年の経験値と、若者が持つ瑞々しい感性を融合させることで、キャッシュレス社会に適応した新しい価値を創造していきたいと考えています。常に変化を恐れず、次世代と共に成長し続ける企業でありたいと願っています。
取材担当者(石嵜渉)の感想
伝統の継承に安住するのではなく、キャッシュレス化という時代の荒波を「次の進化への好機」と捉える林社長の前向きな姿勢に圧倒されました。自身の経験に固執せず、若い世代の感性を信頼して未来を託すという器の大きさも、組織が持続するために不可欠な要素なのだと感じます。世界を舞台に、自社の技術を信じて挑み続けるルボアの姿は、これから社会に飛び込む学生たちにとって、最高に刺激的なロールモデルになるに違いありません。
