アルペンローゼ株式会社は、創業者が伯父、その後父が継承し、私で4代目となる企業です。現在は、アロマテラピーの理念を背景にした国産のナチュラルヘアケアブランド「ラ・カスタ」を基幹ブランドとして展開しています。事業内容は、化粧品の卸、小売り、EC販売の他、ブランドの世界観を体感できるナチュラルヒーリングガーデン、原料となる植物を育てる農場(ラ・カスタナーセリー)の運営、そしてグループ企業による化粧品の製造工場の運営を含みます。
ラ・カスタは、たくさんの植物の香りやエキスをブレンドし、お客様のヘアケアの悩みにアプローチしながら、植物の生命力と癒しを体感できる製品を提供しています。お客様のターゲットは、髪を美しくみせたいという方、髪悩みを抱える方、20代後半から70代まで幅広い年齢層ですが、特にボリュームゾーンは30代後半から自分の髪に悩み始めた方々です。
【今までの経緯・背景】

2001年に大学を卒業した後、海外で働いてみたいという漠然とした気持ちがあったため、海外に工場や支店がある食品会社に営業職として入社しました。
食品会社での営業経験の中で、自社商品と他社商品が似ていると、すぐに1円や50銭といった価格競争に陥ってしまう現実を経験しました。量が多いため、わずかな価格の違いが最終的な利益に大きく影響します。価格の安さで他社製品に切り替わってしまう状況を見て、価格で負けない商売、芯の強い付加価値をしっかり付けられる仕事やモノづくりをしたいと思うようになりました。この商品が「私の人生を変えた」「なくてはならないものだ」と言ってもらえるようなものを作りたいという思いに至ったのです。
2003年、当時化粧品会社を経営していた父から「手伝ってくれないか」という誘いがあり、海外への希望は一旦脇に置き、父の下へ行くことを決めました。ヘアケアを主体とするラ・カスタの営業、その後、ブランドを空間体験できるナチュラルヒーリングガーデンと農場の運営責任者を経て、新型コロナウイルスが世界で拡大する中の2020年に代表取締役社長に就任しました。社長就任時は、多くの商業施設が閉鎖し、先が見えない中で売上が落ちるという大変な時期でした。売上が大きく減る中でも、社員を解雇させることなく、すべての社員に通常通りの給与を支給しました。
取材担当者(石嵜渉)の感想
食品業界での価格競争を経験され、そこから付加価値の高いモノづくりへの転換を決意された経緯に、ビジネスにおける「価値」の追求の重要性を感じました。海外で働きたいという夢を一旦脇に置き、父の会社に入社し、コロナ禍という困難な時期に社長に就任された事実は、社長の覚悟の強さを示していると感じました。これは、私の世代がキャリアを選択する上で、短期的な利益ではなく、真に価値のある仕事を選ぶことの重要性を教えてくれます。


経営は登山に似ている|急成長より着実な一歩を
私は登山が好きで、よく北アルプスや八ヶ岳へ仲間と登りに行きます。経営は山登りと似ていると常々考えています。
登山では、装備は十分に、けれども最小限に持ち、天候や体調、体力を様子見ながら、都度判断をし、一歩ずつ標高を上げていきます。たくさんの装備を持っていくので、走っていくことはできません。ゆっくりゆっくり状態を確かめながら進んでいくのです。天候や体調が悪ければ、引き返したり、足止めをくらったりすることもあります。状況次第では、諦めて撤退することもあるでしょうが、再チャレンジすれば良いと思っています。
長い道のりですから、山の景色や植物を楽しみながら登るように、仕事においても新しいことや挑戦したプロセスを称え合うことが大切だと考えています。成果を少しずつ確実に積み上げていければ良いのです。
私は急成長を望んでいないというわけではないのですが、急激な成長には必ず歪みが出ると考えています。急成長に対応する体制を整えなければならないからです。そのため、一歩ずつ着実にやっていかなければならないと思っています。
取材担当者(石嵜渉)の感想
経営を登山に例え、急成長ではなく「一歩ずつ着実に標高を上げていく」という哲学は、現代のスピード感を求める風潮とは対照的であり、持続的な成長のための地に足の着いた考え方だと学びになりました。挑戦のプロセスを称え合うという考え方は、組織運営における「心理的安全性」の重要性にも通じるものだと感じました。


若者へのアドバイス|文化に触れ、量をこなす
私が学生の皆さんに伝えたいことは二つあります。
一つ目は、海外でも国内でも、絵画や建築などの文化財を見る機会があれば、しっかりたくさん見ることをお勧めします。すぐに成果は出ませんが、確実にご自身の知と感性の引き出しに入っていきます。そして、ある時ふと思い出して活かせる瞬間があるのです。例えば、当社の化粧品のパッケージやビジュアルにこだわる際、学生時代にバックパッカーなどで見た建築や絵画の構図、色使い、考え方が影響していると感じることが多々あります。
二つ目は、社会人になってから頭の隅にいれておきたいことですが、それは「量」をこなすことです。量をこなさない人やそれを軽視している人に、「質」は語れませんし、そこには説得力もありません。改善しながら量をこなしていくうちに力がつき、力量が上がります。
そうしていくと、今の現実と理想像までのギャップが見えてきて、どうしてこの現在地なのかという理由も分かるようになるのです。仕事においては、考えながら量をこなすことで周りからの信頼を得て、良い理想像とそこへの計画を作っていけるようになると思っています。タイパ(タイムパフォーマンス)を重視する考えも理解できますが、仕事においては、量をこなすことが必要です。
取材担当者(石嵜渉)の感想
「量」をこなすことの重要性を強調され、質は量なしには語れないという点は、成果を求める学生にとって実用的な学びであったと感じました。また、文化財を見ることで、感性の引き出しが増え、仕事に活かせるというアドバイスは、すぐに成果を求めず、長期的な自己投資の重要性を教えてくれました。私自身、この取材活動のように「量」をこなしているからこそ、力がついているのだと感じます。


地域との共生と将来への挑戦
一旦脇に置いておいた私の海外への夢は、より明確なビジョンとなり、化粧品や美容をとおして叶えていきます。
弊社は直営店でのヘッドスパ事業を通じて、延べ2万人以上の頭皮を見てきました。その知見を活かし、海外で日本のヘアケアと質の高いサービスを提供し、日本のヘアケアブランドとしてチャレンジしていきたいと考えています。
ナーセリー(農場)では、2024年に有機JAS規格を取得しました。今後は、土壌からより自然環境を考えた農法を研究すると共に、農場から生まれる植物原料を開発し、製品に活かしていきたいと考えています。環境のためにどうすればいいのかという研究もさらに進めていきます。
また、工場のある大町市では、地元のコミュニティと繋がる取り組みも行っています。工場の隣に流れる高瀬川には希少な植物や昆虫が生息しており、それらを保存し、環境保全に貢献することで、地域に愛される会社でありたいと思っています。地元の小学生の工場見学なども積極的に受け入れており、ここで働きたいとか、シャンプーやトリートメントを作ってみたいという夢を持ってもらうきっかけになればと願っています。
取材担当者(石嵜渉)の感想
一度諦めた夢を違う形で実現しようとする姿勢に感銘を受けました。就活で第一志望に落ちても、別のルートで目標に近づくことは可能です。地域貢献と事業成長を両立させる視点は、これからの企業選びでも重要な観点になるでしょう。
