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「依存しない」経営哲学。老舗製造業2代目が語る、若者が身につけるべき商売の力と変化への挑戦

2025年10月01日

株式会社ベル

「依存しない」経営哲学。老舗製造業2代目が語る、若者が身につけるべき商売の力と変化への挑戦

私どもは神戸で50年以上靴を作り続けてきた工房であり、現在の株式会社ベルとして14期目を迎えています。主な事業は、外反母趾に悩む方や、学生向けの痛くないローファーなど、機能性と履き心地を追求した靴の製造販売です。私たちは「いつまでも元気に歩きたい」と願う方を応援し、手作業と日本製にこだわり、究極の履き心地を目指しています。靴の製造以外にも、健康グッズや小物雑貨、ブックカバーなど、多岐にわたる商品を展開しています。今回は、半世紀以上にわたり神戸で靴づくりに情熱を注ぎ、多角的な商品展開に挑む背景、そして「究極の履き心地」を追求し続ける今後の展望について、代表取締役社長・高山様にお話を伺いました。

<聞き手=石嵜渉(学生団体GOAT編集部)>


【高山様の今までの経緯・背景】

私は製造業の2代目です。製造業は、世の中で新たに起業する人がほとんどいない業界であり、今、2代目が非常に多いのです。その理由は、機械設備や仕入れの在庫、資金繰りに多額の金額がかかるためです。特に、仕入れて加工して打ってお金になるまで時間がかかるため、事業が伸びてもキャッシュフロー(資金繰り)が特に重要になります。

父が創業してから56年になりますが、現在の株式会社ベルは設立から14期目を迎えています。私が会社に入ったのは今から10年ぐらい前で、父の体調があまり良くない時期と重なりました。そのタイミングで私も「戻りたい」という思いを伝え、継承の流れになりました。

私が就職したのはちょうどバブルが弾けるギリギリ前でしたので、当時は利益が出ていたというところがあり、単純に「このまま豊かに暮らせるのではないか」という甘い考えで就職しました。しかしその後、阪神大震災(約30年前)の時期には、手形商売をしていた得意先が潰れるなどの試練を経験しました。こうした苦難があったため、社名を変えて今の会社として事業を続けています。私自身、幼い頃から土曜日に母に連れられ、父の仕事場(現場)にも行っていました。靴の絵やデザインをしているのを見て、何かしら興味があったことが、継承の背景にあります。

取材担当者(石嵜)感想

製造業は新規創業が難しい業界だと初めて知りました。社長が「豊かな暮らしができる」という甘い考えで就職され、その後に震災などで大きな試練を経験されたというお話は、時代とともに経営環境が激変することを教えてくれました。

取材担当者(石嵜)感想

【株式会社ベル事業・業界について】

製造業の課題は、人件費が安い国へ生産拠点が移動していることです。かつては「メイドインジャパン」の品質が世界で認められていましたが、人件費が高くなり、生産は台湾、韓国、中国、そして今はベトナム、カンボジアなどへと移っています。

私たちがこの業界で生き残るために学んだのは、変化・進化を続けることの重要性です。会社がなくなっていった共通点は「変化がないこと」でした。流通の変化、作るものの変化、つまり進化を忘れ、停滞することは衰退につながります。学生も同じで、自分がそのままだったら周りが成長しているので出遅れることになります。

流通において、昔はメーカーから問屋経由での大量販売が主流でした。しかし今は、消費者の嗜好が人それぞれに変わり、いろんなものが少なく売れる少量多品種の時代になったのです。物販の商売で会社が潰れる時は、売れない在庫が多くなって潰れるケースが多いです。多品種の時代になると、中間業者である問屋の在庫リスクが大きくなり、問屋に依存していた会社は変化に対応できずになくなっていきました。デパートでの販売に依存していた高級メーカーも、デパート産業が悪くなることで、同じ状況になりました。

私たちも過去に依存で痛い思いをしたので、今は「依存しない」ことをテーマにしています。流通経路を、問屋経由だけでなく小売店への直接取引や、インターネットを使った消費者への直接販売へと勇気を持って変えました。チャレンジと挑戦が変化と進化を生むと考えています。変化を怖がると生き残れません。この変化を支えるのは、やはり商品開発力だと考えています。

取材担当者(石嵜)の感想

 「依存しない」という経営哲学と、変化を怖がると生き残れないという言葉が強く心に残りました。問屋依存から小売直販やインターネット販売へと流通を変化させ、生き残るためには、常に新しいチャレンジが必要であり、それを支えるのが「商品開発力」だという点が、まさに時代の変化に対応する株式会社ベルの強みだと感じました。

取材担当者(石嵜)の感想

【高山様から学生へのメッセージ】

社会人として成長するために必要なこと、それは「商売のコツ」を理解することです。働く業界は様々ですが、物を作って売る、物を仕入れて売るという物販で言えば、「どれだけ安く仕入れてどれだけ高く売れるか」や「どれだけたくさん売れるか」が大切になります。

学生のうちからメルカリでも良いので、自分で物を作ったり仕入れたりして売る経験をすることをお勧めします。メルカリでも、どんな画像でどんな風に表示した方が売れるのかを試行錯誤し、「なぜ売れたのか」を言語化する能力を養ってください。これは、商売の本質や人間の心理を見る力につながります。AIが発達してくる時代だからこそ、本質を見る力やオリジナリティを生み出す力を養ってください。

仕事ができる人の共通点は、「相手の立場になって考えることができること」です。会社の面接であっても、受け取る人の立場にどれだけなれるかが重要です。お客様や取引先の、あるいは会社の面接において、質問を通じて相手の価値観(クオリティワールド)や、求めているものを知り、押し付け感なく解決策を提案していく姿勢が大切です。

さらに実践的なアドバイスとして、興味関心のある業界の一流の会社を探し、アルバイトで「給料は要らないので働かせてください」と言うことも1つ手段だと考えています。そして、そこで成功した話だけでなく、苦労した話や、そこからどう変化してうまくいったかのプロセスを質問しまくることで、生きた知識を得られます。そのような行動ができる人は、就職活動においても、「この人に任せたいな」と思われ、出世していく人の共通点に必ず入ってくるでしょう。

会社が採用したいのは、理念やビジョンに本当に共感している人です。多くの人にモテようとしないことです。給料やブランドだけで来ているなという人は、正直なところ落とされがちです。会社は社会に役立とうとしていますから、その目的・目標に共感しているかどうかを私たちは見ています。

取材担当者(石嵜)の感想

アルバイトで「給料は要らないから働かせてくれ」と一流のところで学ぶべきという実践的なアドバイスは、非常に刺激的でした。また、仕事の成功の鍵が、技術や知識だけでなく、いかに相手の立場になれるかという心理的な部分にあるという指摘は、就職活動にも通じる普遍的なスキルだと感じました。

取材担当者(石嵜)の感想

【株式会社ベルの今後の展望】

当社の今後の展望として、特に「痛くない学生ローファー」の市場でシェア拡大を目指しています。現在のローファーの多くは30年、40年前から進化していません。痛いローファーは悪だと思っています。足が痛いと集中力が持続できないなど、学生の学校生活に影響を与えます。これを最新の材料と技術で変革し、苦しい学校生活をなくしたいと考えています。

私たちは現在、私学を中心にシェアを伸ばしていますが、まだ3%程度です。ローファーを買うお金を出すのはお母さんなので、お母さんの気持ちを動かす必要があります。ターゲット層の立場になって伝え方を工夫し、シェアを伸ばしていきたいです。また、学校側が採用するケースもあるので、その存在を知らない学校の理事長などにもアプローチが必要です。

足元から何々を変える」というメッセージを掲げ、小さな会社が大きな巨人に挑むストーリーで、世の中を良くしていきたいと考えています。そのためには、依存せず、常に新しいチャレンジと変化を続ける姿勢が不可欠です。