Skip to content
【凡人こそ勝てる】元学者志望のM&A経営者が語る、目の前の課題を「好き」に変え、縮小市場を生き抜くための戦略

2026年01月23日

明日香食品株式会社

【凡人こそ勝てる】元学者志望のM&A経営者が語る、目の前の課題を「好き」に変え、縮小市場を生き抜くための戦略

明日香野(明日香食品株式会社)は、大阪府八尾市に本社を置く食品業界の企業です。事業内容は和菓子などの製造・販売であり、「ちょっと食べる」喜びを毎日世界へ届けることをミッションとしています。消費者ブランドとして「明日香野」(あすかの)をブランド展開しており、あんこ餅やわらび餅、もち麦商品、季節の和菓子などを提供しています。同社は創業50周年を迎え(2025年12月時点)、トレイルランニング大会やカルタ大会など、地域やコミュニティへの和菓子の提供を通じた広報活動にも積極的に取り組んでいます。

<聞き手=石嵜渉(学生団体GOAT編集部)>


異色の経歴:歴史学者志望からM&A経営者へ

私は元々、大阪大学で歴史を勉強しており、大学院に進み学者になろうと思っていました。その途中に様々なことがあり、兄がタイで起業をするということだったので、タイで兄と一緒にビジネスを始めたのです。そのビジネスを始めたのは1998年です。

日本にある会社は、明日香野もその親会社も、全て買収した会社です。タイでやっていた事業から発展させ、様々な企業を買収するという形で事業を始めました。明日香野が我々のグループに入ったのは2007年です。私が明日香野の経営に入ったのは2011年で、社長に就任したのは2012年です。

親会社は東証2部に上場している昭和ホールディングスという会社であり、そこのCEOも私が務めています。これも私たちが買収した会社です。事業的には本当にいろんな事業があり、明日香野は和菓子の会社ですが、他にもソフトテニスのボールを137年前に作った会社もグループにあります。その会社は今も日本のボールの50%シェアを誇っています。遊戯王や鬼滅の本などの作成に携わっている会社も一緒にあります。現在、グループ全体で主に5事業を展開し、全部で50社以上あります。

取材担当者(石嵜)の感想

歴史学者志望というアカデミックな経歴から、M&Aを主軸としたビジネスの世界に飛び込み、現在50社を束ねる経営者となられた経緯は非常に異色だと感じました。特に、明日香食品を含め、グループ内の会社を全て買収からスタートさせているという点が、一般的な創業社長とは異なる独特の経営哲学を生み出している背景だと感じます。

取材担当者(石嵜)の感想

凡人なりの戦い方:「与えられたもの」を全力で好きになる

私の場合は、どの会社も買収した会社であり、買収を決めたのは私ではなく兄でした。私は後からそれを経営する役目を担いました。どの会社も良いところがありますが、引き受けているのは経営難の会社です。したがって、私にとって経営とは好き嫌いではなく、自分のところに与えられた義務としての責務として、その会社や事業を良くしていくことでした,。

私の経営哲学は、「責務として与えられたものを全力で好きになる」というものです。理由や偶然があって自分のところに落ち込んできた事業に対して、いかに素晴らしいところを見つけ、それを磨き上げていくかという部分に注力しています。これは、一緒に仕事をしてくれている従業員一人ひとりの特徴を捉えるという意味でも同様です。

世の中の99.9%の皆さんは凡人です。全員ビル・ゲイツではありません。ビル・ゲイツのような天才の真似はできません。私は凡人なので、凡人なりの戦いをしなければなりません。それは、目の前にある状況で、今やるべきこと、一生懸命やるべきこと、基礎的な力をちゃんと鍛えるということを大切にすることです。

多くの人がM&Aに対して改革のイメージを持っていますが、私がやっているのは、今既存でその会社にある実力や素晴らしいところを引っ張り出して、それを引き伸ばしていくことです。何もないところにわけのわからないものを突っ込んでも何も生まれないからです。私たちが持っている会社は超巨大企業ではありませんが、その会社にある戦える方法を見つけ、そこをちゃんとやっていくことが重要です。専門家である従業員たちが一番力が発揮できるような環境を整えるのが、経営者としての私の仕事だと認識しています。

取材担当者(石嵜)の感想

「与えられたものを全力で好きになる」という哲学は、M&Aによって多様な事業を率いる社長ならではの視点だと感じました。また、自身を「凡人」と捉え、天才の模倣ではなく「目の前を鍛える」ことに注力するという考え方は、特別な才能がないと感じる学生にとっては、非常に現実的で力強いメッセージだと感じます。

取材担当者(石嵜)の感想

凡人が生き残る鍵:学問とスポーツの本質を捉える

若者には、「今やっていることをすごい重要だと思ってやること」が大切だと伝えています。結局、自分の目の前にあるものしかできません。

例えば、「学校の勉強は役立たない」と言う人がいますが、私は絶対そんなことはないと思っています。ちゃんと勉強することが重要です。理科で習う浸透圧の概念は、和菓子を作っている開発担当者の話を聞く時に、理解できるかどうかが全く違ってきます。具体的に言うと、餡子と餅の水分量の違いや糖の量が、製品の品質にどう影響するかを基礎的な理科の知識から理解できるかどうかで、話の理解度が変わります。

また、語学の勉強も同じです。私がタイで起業した際、最初は英語しか喋れませんでしたが、英語を勉強した経験があるからこそ、タイ語の勉強ができたと思っています。英語そのものというよりも、語学に取り組む姿勢や構造を理解する力が、中国語やベトナム語といった他の言語の習得にも活かされています。

さらに、小学校で習うパーセントの概念も経営において非常に重要です。経営指標はパーセントで表すことが多いですが、パーセントは結果にすぎません。実際にあるのは分子と分母です。この分子と分母、そしてその中の要素を分解していく「因数分解」のような作業は、中学で一生懸命勉強したことが役立っていると感じています。

取材担当者(石嵜)の感想

「勉強は役に立たない」という風潮を否定し、基礎的な学問や語学がビジネスの現場で専門家の話を聞き、状況を分解して理解するための「土台」となっているという話は、学生にとって非常に説得力があると感じました。知識を増やすことで専門家と話が通じ、仕事の本質を捉えることができるという視点は、学びへの姿勢を変えるきっかけになると感じます。

取材担当者(石嵜)の感想

競争戦略:「フォアハンド」で勝つための山の見つけ方

テニスの経験も非常に役立っています。テニスはフォアハンド、バックハンド、ボレー、サーブなどに分かれています。私はテニスが非常に下手でした。フォアハンドだけはある程度他人よりできたと思いますが、バックハンドは下手で、ボレーも役に立たず、背が低いのでサーブも大したことがありませんでした。しかし、そのような限られた能力の中で、どうやって試合に勝つかをずっと考えていました。

今のビジネスも同じです。私の持っている会社は日本一の会社ではありません。ですが、良いところが必ずあります。私にとっての戦略は、自分の「フォアハンド」のような強みを見つけ、どうやってそれで勝つかであって、会社にバックハンドがないと悩んでも仕方がないのです。

この考え方をビジネスで言うと、登る意味のある山、他人が登れないか、もしくは登るのが難しい山を見つけるということです。自分が登れて、かつ他人が登るのが難しい山でなければ、意味がありません。この「自分の強みを活かす」競争の考え方は、テニスで身につけたものだと思います。

和菓子業界は、ライバル企業も広報宣伝をほとんどやらない会社ばかりです。当社の和菓子は、スーパーで肉や魚を買って、最後にパンの売り場の端っこに置いてあるため、ついでに買われる商品です。中期計画で、「ついで買いから指名買いを目指す」というのをはっきり出しました。SNSなどを通じて消費者の方と直接繋がり、「明日香野のあれを食べようかな」と思ってもらえるように、指名買いを目指す戦略を取っています。

取材担当者(石嵜)の感想

テニスの経験を競争戦略に落とし込み、「フォアハンド」(強み)を最大限に活かすという考え方は、自分の弱点に悩む若者にとって、視点を変えるヒントになると感じました。和菓子業界で他社がやらない消費者への直接的なアプローチにチャンスを見出す戦略は、まさに「他人が登るのが難しい山を見つける」という社長の哲学の実践だと感じます。

取材担当者(石嵜)の感想

縮小市場を生き残るための「長期投資」

今後の目標は、シンプルに「生き残ること」と「継続すること」です。日本は今後、人口が減り、市場が縮小し、労働力も減っていくことは明らかです。この縮小する市場で生き残っていくのは、強烈な生き残り競争になるはずです。

生き残るための鍵は、主に三つあると考えています。

  1. 財務の基盤をちゃんと作ること:お金がなくならないことが最も大切です。お金がない会社は継続できずに潰れます。
  2. リクルートの力と人材を登用する文化:人が足りなくなる未来に備え、リクルートをちゃんとやり、人を育て、登用することが大切です,。私が入った時、経営陣は基本60代が中心でしたが、今では40歳から59歳で分厚い経営層ができています。29歳で工場長に抜擢した例もあります。
  3. 社員が働きやすい環境整備:社員が辞めない会社にするため、例えば、週休3日制を設けています。週休3日制は、親の介護や子育てなど、様々な状況に合わせられるように2017年から作ってきました。外国人雇用に対する制度整備も行っています。有給休暇の消化率も私が就任した時の25%から70%超えまで上げています。残業時間も元々50何時間あったのが、今平均で20時間程度まで減らすことができました。

これらの施策は、導入当初は収益がマイナスになるため、誰もやりたがらないことです。しかし、10年後、15年後に生き残る会社にするためには、今すぐできないことを積み上げていく必要があります。私が言ったようなことを今すぐ全部やろうとしたら、その会社は多分どうにもならなくなりますが、15年積み上げてきたからできています。

経営者として、経営学者の楠木教授の、『利益は「空気」のようなものだ』という言葉が好きです。空気のために生きている人はいませんが、空気がなければすぐに死んでしまいます。利益もそれと同じで、継続するためには必ず出さなければなりません。私は凡人として、車のバックミラーやサイドミラーのような存在である財務諸表を常に見て、会社の状況を把握する運転を心がけています。

取材担当者(石嵜)の感想

「生き残ること」を最優先のビジョンとし、長期的な視点から財務基盤の強化、人材育成、労働環境の改善といった「筋トレ」をコツコツと積み上げてきた戦略は、短期的な利益を追う企業とは一線を画していると感じました。特に週休3日制の導入など、労働環境への投資が未来の競争力を生むという考え方は、就活生が企業を選ぶ上で重要な判断材料になると思います。

取材担当者(石嵜)の感想