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旅館業界の真実と未来の担い手へ:奥飛騨の老舗旅館三代目が語る「覚悟」と「可能性」

2026年01月27日

有限会社奥飛騨ガーデンホテル焼岳

旅館業界の真実と未来の担い手へ:奥飛騨の老舗旅館三代目が語る「覚悟」と「可能性」

置しています。奥飛騨温泉郷は、日本屈指の湯量を誇る山岳温泉地であり、平湯温泉、新平湯温泉、福地温泉、栃尾温泉、新穂高温泉という5つの温泉地で構成されています。石田様の旅館は、この中でも山深い地域にあり、周辺には新穂高ロープウェイや上高地、乗鞍スカイラインといった観光地を擁しています。古民家を移築した宿や、露天風呂が自慢の宿など、自然を活かした個性豊かな旅館が多く点在するエリアです。

<聞き手=高橋宏輔(学生団体GOAT編集部)>


【旅館の長男として生まれた宿命と教え】

私は、岐阜県高山市の奥飛騨温泉郷にある旅館の長男として生まれました。旅館の長男坊として生まれた瞬間から、旅館を継ぐことは運命付けられていました。今のZ世代と呼ばれる人たちからすると信じられないかもしれませんが、祖父母からは「お前は立派な跡取りになるんだぞ」と言われて育ちました。私だけは特別扱いを受けて育ち、弟たちは好きな道に進めばいいけれど、私だけはそうはいかないという教育でした。父も長男でしたので、まさに昔の「殿様」の世界のように、家業を継ぐ者としての宿命を幼い頃から刷り込まれて育ったのです。

ただ、やりたいことがなかったわけではありません。しかし、他のものを選択する余地はなかったですし、「私が跡取りにならなければいけない」という**使命感**も強くありました。それは、父親に対する尊敬の念もあり、父親のようになりたいという気持ちもあったからです。この使命感のもと、大学を卒業するとすぐに自分の会社に就職しました。

 親が仕組んだ環境と新たな選択肢

父は私の性格をよく理解していました。私は割と向上心が強く、人に感化されやすい性格でした。そのため、父は最初から「そんな良い大学に行かなくていい、勉強しなくていい」と言ったのです。刺激の多い高いレベルの環境にいけば、それまで旅館の跡を継ぐものだと思っていた私が、「海外で働きたい」「こういう商社で働きたい」といった**別の選択肢**を持ち始めてしまうことを懸念したからです。もし、周りに「俺は政治家になる」「官僚になる」という人間がいれば、自分も世界を変えたいと思い始めるかもしれません。しかし、父はそうならないように、刺激が少ない環境を選ばせました。

その結果、私は旅館の跡取りになる以外の選択肢を持つことなく、家業を継ぐという運命を自然と受け入れました。大学卒業後は、約4年間、東京の会社で旅館業界の営業を経験しました。自社の社員でありながら、他の旅館さんのパンフレットを持ってセールスを行う業務を経験し、旅館業界や他社の現状を学ぶ機会を得たのです。そして、東京での営業経験を終え、実家に戻り旅館の運営に携わるようになりました。旅館の運営に携わりながら、コロナ禍の2020年に三代目として社長に就任し、現在に至ります。

取材担当者(高橋)の感想

石田社長が長男として背負ってきた使命感と、父親が作り上げた環境の徹底ぶりに驚きました。社長は、もし違う道を選ぶ余地があったとしても、結局は使命感から家業を継いでいたのかもしれません。しかし、父の教育によって、「自分の人生をどう生きるのか」という問いに対する答えが、早いうちから「旅館を継ぐこと」として固定化されてしまったようにも感じました。私たちがいる現代は、多様な選択肢が溢れています。だからこそ、自分の人生の目的を深く問い、「自分はどう生きたいのか」を明確にすることが重要だと改めて考えさせられました。

取材担当者(高橋)の感想

【地方の旅館が直面する、切実な「人財不足」】

私たちの旅館が位置する奥飛騨温泉郷は、高山市内から車で1時間ほどかかる山間部です。高山市内であればまだしも、この奥飛騨では深刻な人手不足、特に若い人財の不足に直面しています。地元出身の私の同級生も、今地元に残っているのはごくわずかです。ましてや、都会からこの地に住んで働く人は少ないのが現状です。

奥飛騨のような地方では、生活の利便性が低く、車がなければスーパーや病院、ましてや子どもの習い事にも行けないといった課題があります。さらに、冬は雪が多く、通勤に時間がかかるというリスクもあります。そのため、若い人財を確保するには、都市部よりも高い給与を提示するか、あるいは**福利厚生を充実させる**必要があります。当旅館では、食事の無料提供や寮の管理費を格安で提供することで、社員の支出を極力抑える工夫をしていますが、それだけでは優秀な人財の流出を防ぐことは難しいのです。特に昨今、大手ホテルや、異業種の企業が観光業界に進出し、高待遇で募集をかけるケースが増えています。当然ながら、私たちのような地方の旅館では太刀打ちできません。給与が上がり、労働環境も改善されるのであれば、従業員が辞めてしまうのは致し方ないことだと受け止めています。

 「団体客特化」で実現する効率的な運営

人財不足が深刻化する中、私たちは運営を効率化するため、他の旅館とは一線を画す戦略を取っています。奥飛騨温泉郷にある旅館のほとんどが個人客をターゲットにしているのに対し、私たちは団体客に特化しています。

個人のお客様の場合、食事の提供時間や進捗がバラバラになるため、個室での食事対応には多くのスタッフが必要になります。しかし、団体客の場合は、全員が同じ時間、同じ会場で食事をするため、例えば30人の団体でも2人のスタッフで対応が可能です。個人客を相手にするよりも、遥かに少ない人財で運営を回すことができるのです。もちろん、個人のお客様に対しては、細やかなサービスを提供できないことへのご理解をお願いすることになりますが、少ない人財で高品質なサービスを提供するための**苦渋の決断**でもあります。

 老舗旅館の新たな挑戦「地熱開発」

旅館業とは別に、私たちの旅館が所有する広大な土地を活用した**地熱開発**事業も進めています。当旅館の近くには豊富な熱源があるため、その土地を地熱発電を行う企業に貸し出しています。 地熱開発には、温泉への影響を懸念する声など、様々なハードルがあります。しかし、日本の地熱発電のポテンシャルは高く、エネルギー問題への貢献が期待されています。父である会長が主導して、電力会社や大手ゼネコン、証券会社やファンドなど、多様な企業と連携しながら進めている事業です。私は旅館の運営に専念しているため、この事業には直接関わっていませんが、旅館の安定的な経営を支える新たな柱として、大きな期待を寄せています。

取材担当(高橋)の感想

旅館業界、特に地方の観光業が直面する人財不足の現状は、想像以上に深刻だと感じました。しかし、石田社長が団体客に特化するという**大胆な経営判断**を下し、少ないリソースで最大の効果を生み出そうとしていることに、強い危機感と同時に、変革への意志を感じました。また、旅館業という本業を維持・発展させながら、地熱開発という新たな収益源を確保する戦略は、まさに多角化経営の成功例だと感じます。地方の企業が生き残っていくためのヒントが詰まっているように思いました。

取材担当(高橋)の感想

【地方こそチャンス、まずは「地方創生」に参画を】

地方の企業は、都市部の企業と比べると、賃金や福利厚生の面でどうしても見劣りしてしまうのが現状です。しかし、若い皆さんにこそ、地方の観光業、特に私たちのような

「片田舎」にチャンスを見出してほしいと思います。

例えば、奥飛騨温泉郷でいえば、空き家になっている民宿を破格の値段で借りて、自分一人で、あるいは仲間と一緒に運営を始めてみるという選択肢があります。初期費用を抑え、自分の好きな料理やサービスに特化すれば、競合も少なく、地元のお客様や、私たちの旅館に泊まったお客様の「次はどこに泊まろうか」というニーズも拾えます。もし、皆さんに「何かをやりたい」という気持ちや、自分のスキルを活かしたいという強い思いがあるなら、ぜひ「地方創生」の一員として挑戦してください。

 若者の力で地方の「不便」を「可能性」に変える

私たちが直面している人財不足の課題は、裏を返せば、若い皆さんが活躍できる場が豊富にあるということです。人財が少ないからこそ、入社してすぐに**支配人**といった重要なポストを任されるチャンスもあります。また、古参の従業員が多く、動きが鈍くなっている旅館も少なくありません。皆さんが持っている柔軟な発想や、ITスキル、そして何より素直な接客に対する姿勢は、業界全体を変える大きな力となります。

旅館の仕事は、「お客様に喜んでいただく」というシンプルな目標のために、自ら考えて行動することが求められます。例えば、お客様から水が欲しいと言われた時に、ただ水を出すだけでなく、「氷は入れますか?」「お代わりはいかがですか?」と一歩踏み込んだ提案ができるか。これはマニュアルでは教えられない、お客様を思いやる感覚です。若い皆さんには、その感覚を研ぎ澄まし、お客様だけでなく、一緒に働く人たちにも良い影響を与えてほしいのです。私たちの旅館に来てくだされば、皆さんの持つその意欲や感覚を最大限に活かし、短期間で大きな成長を遂げる環境を提供できると確信しています。

取材担当者(高橋)の感想

石田社長の「地方こそチャンス」という言葉は、私たちZ世代の心に響きました。地方の抱える課題を理解した上で、その課題を解決する側に回ることで、自己成長と社会貢献の両方を実現できるというメッセージは、非常に魅力的です。特に、旅館の支配人という責任ある立場を短期間で任される可能性があるという話は、キャリアアップを目指す学生にとって大きな魅力となるでしょう。

取材担当者(高橋)の感想

【若い世代の「挑戦」が日本の観光業を救う】

私自身は、父の意向もあり旅館の運営に専念していますが、現在、地方の温泉旅館を取り巻く状況は、円安という追い風があるとはいえ、人財不足という課題が根深く残っています。今後は、旅館業とは別に進めている地熱開発事業や、新しいことに挑戦し続けることで、私たち自身が地域を引っ張っていく存在にならなければならないと考えています。そして、その原動力となるのは、やはり若い人財の力です。

当旅館では、すでに海外からの優秀な人財も多く活躍していますが、日本のサービスの本質を理解し、現場を引っ張っていってくれる日本人材を増やしていくことが、喫緊の課題です。皆さんのような若い世代が地方の観光業に飛び込んできてくれることで、業界に新しい風が吹き込み、日本全国の地方創生が進むと信じています。

 地方創生への貢献と「挑戦」の継続

私たちは、今後も奥飛騨という地域に根ざしながら、お客様に喜んでいただくことはもちろん、共に働く仲間、そして地域全体が豊かになることを目指して事業を継続していきます。私たちが新たな挑戦を続けることで、皆さんが「この旅館で働いてみたい」「奥飛騨で何かを始めてみたい」と思ってくれるきっかけになれば幸いです。そして、若い皆さんがその情熱と能力を存分に発揮し、日本の観光業界の未来を創造する存在になってくれることを、心から願っています。

取材担当者(高橋)の感想

今回の取材を通して、石田社長の持つ強いリーダーシップと、地方の旅館業が抱えるリアルな課題を深く知ることができました。人財不足という逆境の中でも、団体客特化や地熱開発といった多角的な戦略で未来を切り開こうとする姿勢は、私たち若者にとって大きな学びです。また、社長が若者に対して「片田舎にチャンスをください」と語る言葉には、地方の観光業界の未来を託したいという切実な願いが込められていると感じました。この熱意を、ぜひ多くの就活生に届けたいと思います。

取材担当者(高橋)の感想